四日市の焼き鳥

伊勢・志摩が目的地になると、どうしても通過することになるのが四日市だ。
また、時間に余裕ができたので、自動車での長距離移動にも、なるべく高速道路をつかわないようにしている。
これは、高速代が高いことも理由にあるが、街の息吹をせめて一般国道からでも眺めたいことに大きな理由がある。

もちろん、決して事前期待はしない、「道の駅」にも極力立ち寄るのは、買い物がしたいのではなくて、どんな「名産」があるかを確認したいからである。
なので、よい意味で期待が裏切られると、やっぱり立ち寄ってよかった、とおもうし、期待通りたいしたことがないばかりかその寂れた様子をみるにつけ、地元の役所が全面にからんだ、旧ソ連のショップを思い出して、納得するのである。

そんな意味で、道の駅の成功と失敗は、行政の関与度合いと反比例する。

正月休みを2月中に消化しないといけない家内が、定年を間近にしてはじめて、この時期にまとまった休みがとれたので、なるべく雪の心配がない沿岸地方を回ろうと、四日市にやってきた。

途中、岡崎市の、「道の駅藤川宿」に立ち寄った。

岡崎といえば、徳川家康の祖父、松平清康がここに築城した経緯がある。
「家康」という名前は、竹千代にはじまって何度も変えていて、「康」の字があるのは、偉大な祖父の子孫を暗黙に主張しているのである。
また、松平姓を徳川にしたのも、朝廷からの「国主任命」にあたっての有職故実から、源氏の松平ではない、藤原氏の「得川」にするべく、「得」を「徳」に変えている。

家紋の「葵」も、本多氏(こちらは「立葵」のデザイン)が先につかっているので、後付けで「三つ葉葵」とした徳川将軍家としては、葵をつかうデザインは、徳川四天王のひとりだった、本多氏にだけ許していることになっている。

御三家筆頭なのに、とうとう将軍を出さなかった悲劇の尾張徳川家は、筆頭家老が本多忠勝で、忠勝自身も桑名藩主(10万石)であった。
なので、親藩だった四日市(八田藩)も、本多家との因縁は深い。
こちらは、紀州徳川家に縁のある人物が、吉宗によって藩主に取り立てられたからだ。

藤川宿の道の駅では、「和蝋燭」が名産だとして販売されていた。

こうした物品は、民間の店舗なら、ふつう「仏具」の要素をからめて、関連グッズを販売するものだけど、「地元だけ」しかみないので、「和蝋燭」しか売っていない。
線香もなにもないのは、それなりの「潔さ」ともいえるけど、こじゃれた「蝋燭立て」もない。

こうした物品を購入するのは、「道の駅」だから、基本的には観光客である。
ならば、「土産物」ということになるのに、包装のための紙袋はなく、一枚2円の「オリジナル」レジ袋しかないという割り切りに、SDGsに脳を冒された役人のセンスが、テンションを精算時に台無しにするのだった。

むき出しの商品に、購入証明のテープを貼りつけるのは、気持の籠もったプレゼントにならない無粋がある。

そんなことだから、「岡崎城」を見学する気もうせた。
街のシンボルが「城」というのは、150年前に開港しただけの寒村だった横浜からしたら、うらやましいかぎりだけれど、鉄筋コンクリート造りの「城」を城として崇める気にはならない。

秀吉の最初の居城、「長浜城」のちんけと、おなじなのである。

気を取り直して、国道をひたすら走って、四日市についたのは暗くなってからだった。
近鉄四日市駅の周辺は、人口が少ない分、横浜の街より上品で、繁華街もそれなりだった。

工場がそびえるのは、川崎に似ている。

ただ、四日市のひとたち、あるいは名古屋経済圏というべきか?
おそらく、可処分所得のレベルが横浜より高いと感じた。
また、若いひとたちが多い印象も、横浜とはちがう。
しかしながら、中国人女性の客引きの存在は共通している。

初めての土地なので、見当をつけるためいろいろと飲み屋を物色しながら歩いたはての感想である。

それでもって、小さめな焼き鳥屋がよさげなので入店した。
注文した料理がぜんぶ美味かった。

鶏の質がちがう。

残念ながら、いまの横浜には、ちゃんとした飲食店が絶滅の危機にあって、「昔ながら」を探すのがたいへんだ。
気がつけば最後の客になっていた帰りがけ、店主と話す機会を得た。

鶏がちがうようだけど、といったら、こちらには「名産の鶏があります」とのこと。
名古屋コーチンがあるから、名古屋というか愛知県(「愛知地鶏」がある)が鶏の名産地だから、そのつながりがあるのだろう。
ノーリサーチのままとしては、ヒットした。

次回、いつ訪問するかはわからないけど、四日市は焼き鳥だ、と、まるで目黒のさんまのごとく擦り込まれた。

まぁ、何事も最初が肝心なのである。

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