境界のない「自然」

「自然」がだいすきだ。

ところが、「自然」とはむずかしい言葉で、なにをあらわすのかよくわからない。
その都度ちがう場面で、「自然」をいう。

たとえば、明治期の「自然主義文学」。
フランスのエミール・ゾラを源流にするけれど、日本人はこれをすっかり「日本化」させて、ゾラの魂胆とはちがう方向へといって、それをまた「自然主義」だと言い張った。

「わたしは自然が大好きだから、自然のなかで馬に乗る」ということを、「自然派」をうたう企業の宣伝で流している。
あたかも、出演している女優の「素顔」のような表現をしている。この女優にはなんのうらみもないけれど、言葉をよくかみしめれば「意味不明」だ。

「自然」という言葉が、なんとなく「自然」に耳に入る。
でも、馬術クラブらしき背景映像と合致しない。
整備された馬場で馬に乗ることが、自然が大好きだから、といわれても、ちょっと意味がわからない。

もちろん、「自然」といえば、「自然科学」がある。
人間の手が及ばない世界の生きものたちやら、現象を「科学」する。
典型的「理科系」の世界でもある。

日本庭園の「自然」は、おそるべき「設計」と「作庭技術」とによって、人工的につくられているのに、鑑賞者はこれを決して「すばらしい技術」とはいわず、かならず「理想的自然美」といって礼賛する。
それが、「盆栽」や「箱庭」としてヨーロッパが輸入した。

世界帝国をつくったイギリス人は、その豊かさをもって真似たのが「ガーデニング」で、オリジナルの日本庭園とは似ても似つかぬものとしたのは、「自然主義文学」の逆パターンである。
それで、「英国式ガーデニング」が輸入されて、日本家屋の庭を飾っている。

日本の「盆栽」や「箱庭」の専門家からしたら、「逆輸入」なのだけど、趣味の世界に目くじらを立てる気はない。
それよりも、日本庭園の「人工」に驚くのである。
アスファルトの道路から、塀一枚を隔てるだけで別世界がある。

これを、意図して作っている。

自然に放置して、日本庭園ができるわけではない。
たとえば、「棚田(千枚田)」をみると、ひとは農業で暮らしてきたDNAが感情を湧き起こして、感涙にむせぶほどに感動する。

そこには、何年もかけて作り上げた作業の重みと、これを維持する作業の重みがかさなって、「米を得る」ための執念を読みとるからだろう。
すると、「水」はどうやって確保したのか?とか、畑じゃダメなのか?とか、さまざまな憶測が浮かんでは「粉砕」される。

人の手による「立体的造形美」がパノラマとなって、圧倒的な迫力となるからである。
10や20世代ではない時間の継続性も、追い打ちをかける。

だからいま、機械を入れられない、上部の小さな面積の「棚」ほど、耕作放棄されていると聞けば、農作業の辛さをしらない都会人は、「傷つけている」と残念がるのである。
しかし、おそらくその「棚」からの収穫は、「これだけー」なのである。

すると、農家の経済として、投下する労働力と収穫の見合いから、「放棄」という結論が出たものに、外部の「景色」を楽しむひとから文句をいわれても、対処の方法がないとしていた。
しかし、それならと、外部のひとに「耕作募集」をかけている。

水は高いところから低いところに流れるのは、「自然」である。
すべての「棚」に引く水をコントロールするには、最上部が重要なのだ。

いま、人類は聖書で懲らしめられた驕り高ぶった人々のように、「科学万能」に酔っている。
ところが、肝心の科学のレベルを、一般人はしらない。
それで、専門家のいうことを鵜呑みにすることになった。

専門家は嘘を言わない、ということが「信仰」になったからである。
ところが、あらゆる分野・業界の専門家は、研究予算というおカネがないと生きていけない。
それでもって、とうとう「魂を売って」しまった

はてさて、水が高いところから低いところに流れるのは、「重力」がはたらくからである。
しかしながら、人類はいまだに「重力」がなんだかわかっていないのだ。
りんごが木から落ちるのは、「万有引力(重力)だ」まではいい。

それがどうして「力」になっているのかがわからないから、重力をコントロールすることができない。
「自然」まかせなのである。

あと何年したら、重力をしることができるのか?
1000年ぐらいだろうか?

その前に、耕作放棄地の雑然を、「自然」だとおもわないことの反省がいる。

あんがいと、「自然」は「醜い」ものなのだ。
「美」と「醜」の境界はなにか?
それは、人間側の事情できまることであって、「自然」はお構いなしなのである。

だったら、いまでは死語になったように使わないけど、「天然」という概念が前面にでてきていい。

天然ガスの天然だし、天然ボケの天然である。
自然は「愛でる」ものだけど、天然は?

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