県民の健康について、画期的調査を断行したのは奈良県だった。
この調査は、医療機関と患者数のバランスを図るもので、毎年1回、厚生労働省へ報告されて、これを国がまとめて国策の基礎とする建前があった。
まだNHKに「まともさ」が残っていたとき、総合テレビの討論で、厚生労働大臣と日本医師会の副会長をコメンテーターとして、全国都道府県の担当課超級を集めた番組があった。
このときNHKの「仕込み」は、炸裂して、医師会はしどろもどろとなり、厚生労働大臣は身動きが取れなくなったから、視聴者には「NHKの快挙」にみえたのである。
しかし、この「快挙」をやったのは、奈良県の保険担当者であった。
彼らは、県の「基本政策」となる従来からのこの調査の根本を問題視して、数年をまたぐ「独自調査」に専念したのである。
よって、この間、奈良県は国に調査結果の提出をしなかった。
それでもって、番組前半は、省内の事務方から吹き込まれた大臣より、厳しい叱責が奈良県に向けられた。
大臣の叱責を待っていたかのように、その他の都道府県の担当者たちも、全国版が不十分なままになることに不満を漏らしたのである。
まさにこの瞬間、奈良県は、針の筵に座らされることになった。
そこで、司会者が、奈良県がこの間、何をやっていたかを取材しました、とさえぎって、VTR報告になったのである。
そしてなんと、奈良県の職員が、しらみつぶしに県内の開業医も含む医療機関全部を訪問し、患者とその疾患の状態をもとに、地図に落とす、という作業をしていた。
つまり、どの医療機関にはどんな病気の患者が、どの地区からやってきているか?の分布図を作成していたのである。
もちろん、医療機関には、県へのそのような「報告義務はない」ので、調査協力を断られる事例も多数あったという。
なぜなら、カルテの読み込みまでやったからである。
しかして、奈良県は数年をかけて、県内の各地における病気の状況と、専門医療機関の密度を確認することができた。
これぞ、この調査の本来的意味である。
新しく課長になった人物が、従来の「作文報告」に意味がない、と結論づけたことからの快挙なのだ。
その結果は、県民の病状に対応する医療機関の分布のズレが深刻だと確認できたことにある。
ただし、当時の県知事がどこまで承知していたのかは不明だ。
それで、政策的に、新規開業許可と廃業とのバランスを、分布図に沿うようにして、密度のギャップ改善を試みたのである。
もちろん、その効果は、時間とともに発揮されるのは当然だし、これが本来のこの調査の意味だ。
画面がスタジオに戻ると、司会者は畳み掛けるように奈良県の担当者に質問した。
調査の意義を説明しがらも、医療機関から協力拒否されたという実態は、医師会の協力がなかったという意味か?と。
そこで、担当者は即答して曰く、「はい、その通りです」。
さらに司会者は、前任まで「作文報告」をしていたことについて、他の都道府県についてはいかが思われますか?
担当者は、「こうした調査をやったと聞いたことがないので全国で作文報告をしているはず」と答え、スタジオが凍りついたのである。
容赦ない司会者は、前半で奈良県を非難した他県のひとに、「ご覧のような調査をされているのか?」ときいたが、誰も応えるものはいなかった。
そこで、前半に「べき論」を語っていた医師会代表に、奈良県医師会の態度についてどう思うかも聞いたし、大臣へは、「全国で作文報告をしている」のに、奈良県を叱責した大臣は、これら実態と報告書を読んだことがあるのか?と質問した。
結局、全国版の報告書を書き上げることだけの自己目的化していた実態を、大臣は認めるしかなかったのである。
おそらく、この大臣は、帰りの車で、担当官を怒鳴りつけたことだろう。
さてそれで、コロナについての対応も、奈良県は独特だったのは、こうした「過去の実績」の賜物であろう。
17日、中日新聞が、愛知県の驚愕すべき発表を伝えた。
「第7波」における、愛知県内の死亡者数は、「ゼロ」である実態があるにもかかわらず、「死亡原因を厳密にしないでよい」とした、国への報告と異なることに正式抗議した、と。
つまり、遺体にPCR検査を行なって、「陽性」であればコロナを死因として報告せよとする、「あれ」である。
この「あれ」とは、2020年6月18日に厚生労働省コロナ対策事務局が出した、全国「事務連絡」のことである。
これは、「統計法違反」の疑惑もあるから、本来ならば検察が動いて良さそうな「行政による犯罪容疑」だ。
また、法的根拠のある「通達」ではなく、「事務連絡」としたことに、高等行政官たちの悪知恵が見てとれる。
アメリカでは、FBIや司法省が、民主党の片棒を担いでいることで、かえって民主党員まで共和党へ鞍替えするような事態になったけれど、我が国では、国家行政の容疑を追求するのが「行政機関の検察=法務省」に委ねられている。
自民党が問題だけど、これに対抗する勢力が国家レベルで存在しない、つまり、「想定外」なのである。
奈良県と愛知県の反乱に、他の都道府県はどうするのか?
これが「地方の時代」の本当なのであった。