小雨の江ノ島にいってきた

わが家から江ノ島までは、自転車で1時間半ばかりだけど、雨の中電車で江ノ島に行く、となれば、何年ぶりのことか。
なぜだか急に、島内のお店でうまい魚が食べたくなった。

大船からモノレールか、藤沢から江ノ電か、小田急か?
子どものころ、海水浴にいくとなったらかならずのコース、藤沢から小田急に乗ることにした。
終点の駅が海に一番近いからでもある。

藤沢駅でスイッチバックする小田急の「江ノ島線」は、ほぼ「境川」と「引地川」沿いを走っている。
京浜急行が、横浜から大岡川に、相鉄は帷子川に沿っているから、あんがい鉄路とは、川がつくった地形に忠実である。

ちなみに、今の時期の藤沢市、なかでもこれらの川沿いは、トマトの名産地になって、秋になれば米なら「キヌヒカリ」がとれる。
境川の対岸、横浜市は、小松菜で日本一の産地ということになっているのは、対象面積が広いというカラクリがあるからである。

小田急「片瀬江ノ島駅」は工事中だった。
さいきん、なかなか見ることができなくなった「ターミナル」である。スイッチバックの藤沢駅から三つ目にまた、ターミナルがあるのは、なんでもつなげるJRとは真逆をいく。

その「片瀬江ノ島駅」といえば、むかしから「竜宮城」のデザイン駅舎だったから、どうなったか降車して振り向いたら、すこぶる立派かつ新品の趣で、むかしよりおおきいかもしれない「竜宮城」の朱色がまぶしかった。

ポストモダンの殺風景を好むJRとは、やっぱり真逆で、雨の中でも数人の若いひとが写真を撮っていた。
シーズン外の月曜日の昼下がり、もともと乗客はおおくはないが、ダラダラつづく「自粛」の時期もかさなっている。

いまどき、旅先で駅舎を記念撮影させる仕掛けを「ムダ」というかんがえがはびこっているけれど、こうした「伝統」の建築は、人生の「記憶」を呼び覚ましてくれるものだ。

駅前広場のコンビニが、かつての食堂兼典型的な土産物屋だったことが、定点カメラの写真のように想いだされた。
夏場の開放的店内に、かならず「かき氷」や「ラーメン」を食べているひとがいて、うらやましかった。

その夏のシーズンに向けてか、境川にかかる広い歩行者専用の橋も工事中で、あたらしい舗装の最中だった。
しかして、ほんとうに「海開き」するものか?
わが国最初の「大磯海水浴場」は、早々に今シーズンの営業「自粛」を決めてしまった。

70年代、江ノ島か三浦か?という人出の競争があった。
江ノ島は、橋によって東西に海水浴場がわかれていた。大規模なのは、「西浜」で、東京湾の三浦海岸とあらそった単位は「100万人」だった。

砂浜も波打ち際も、「芋洗い状態」といわれたものだ。
もちろん、早朝からの電車も満員だった。

塩水からあがって、海の家で飲んだコーヒー牛乳の味わいは格別だったし、おとなたちはなぜだかビールで、朝から宴会をやっていた。
海にまできて、なにをしていたのか?
それでも、気が向くと海にはいっていたから、よく事故にならなかったものだ。

境川河口にある、漁港の整備で伸びた堤防が沖に張り出して、景色がかわった。
もっとも、この堤防が上流からの生活排水を海水浴場側にいかせない誘導の役割もあるにちがいない。

ただし、国道1号「藤沢バイパス」の横に位置する最下流の「浄化センタ-」によって、ずいぶんと水質は改善されたはずである。
川の水も人工的な加工があって、海にたどり着く。

そんなわけで、江ノ島大橋を渡り出すと、歩道にはまばらといっても人影がある。
30年以上前から利用しているのは、島内にはいって大きな海産物屋ビルの裏にある、網元さん直営のお店だ。

玄関の面構えは、なんだか高級店で、メニューの一部にも「時価」とあるから一瞬ひるむが、リーズナブルな値段で提供してくれる。
ここ数日前から営業を再開したという。

事実上、江ノ島は一般人が入島できない、全島で営業施設が「自粛」していたので、誰もいない島内は生まれて初めてだったと女将さんがいっていた。
すると、弁天様も閉鎖されたのか?

陸からみた江ノ島の中腹にある、駅舎と似た建物は、江島神社の「瑞心門」で、こちらがオリジナルの竜宮城だ。
もともと、江ノ島は全島が江島神社の「境内」なのである。

江戸時代の『相州江之嶋 弁才天開帳参詣群集之図』という浮世絵は、横浜にある「神奈川県立歴史博物館」の所蔵である。
弁天様といえば「琵琶」を抱えていることから、「技芸の神」とされていて、画面には江戸長唄の杵屋、清元節、常磐津節のひとびとが「群衆」として描かれている。

島全体が神社なのだから、いまでは、「パワースポット」として有名で、それもあって若いひとにも人気の場所になっている。
カップルが多いのは、縁結びという御利益からだろう。
その江島神社も、夏の大祭が中止と発表されている。

お目当ての店内は、わたしたち夫婦しか客はおらず、なんだか申し訳なかったけれど、期待通りに堪能させてもらった。

はやく利用者側の「自粛病」が治りますように。

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