国民学校の生徒が「唖然」とした、終戦直後の教科書への「墨入れ」は、価値観がひっくり返る社会現象の強烈な刷りこみとなった。
100%疑いもなく信じていた、教師も親も、隣近所も、おとなたちが揃って、回れ右をするように、昨日までの言動と今日とでは「違った」し、昨日までのことは「忘れろ」とまで命じられたのだ。
今でこそ、「耳年増」ならぬ「情報過多」のおとなびた子供はいるけど、よくよく考えれば、いつの時代だって子供はおとなを観察して生きている。
むしろ、おとなの観察をしないで生きている子供なんていない。
落語に登場する生意気な子供や寺の小僧が、妙におとなの事情に詳しいのも、しっかり観察しているからで、思い当たる節がたくさんあるから観客は笑うのである。
それがまた、おとなに成長する、という意味でもある。
むかしは子だくさんだったから、兄弟姉妹がたくさんいた。
わたしの親世代は少ない方で、父方は2人、母方は5人だった。
父方が当時としても少ないのは、「夭折」という事情があったからで、生きていれば4人だが、それでも少ない。
8人とか10人とかと、二ケタだって驚くひとはいなかった。
すると、長男長女と末子との間にいる弟だか妹だか、兄だか姉だかが曖昧な子供が複数いる。
上下に何人かいるからである。
最初の子供は、近所の子供との間で関係をつくるけど、家の中では全部下になる兄弟姉妹の面倒をみないといけない。
年の差が開けば、上の子供が下の子供のおしめだって取り替えた。
それが、一生頭が上がらない関係も構築したのだ。
中間の子供は、上の兄姉の行動をみれば、年の差であと何年かしたらああなると予想できて、下の弟妹をみれば、自分もあんな時期があったものだと確認できた。
つまり、「フラット」な発想をしなかった。
いまは、ひとりっ子ばかりで、兄弟がいない時代になったから、「同学年」というフラットな環境にだけいて成人するしかない。
学年を超える活動の、子供会もボーイスカウトやガールスカウトの参加者も減っている。
そんなわけで、会社にはいっても「同期」というフラットな環境が中心にあることになったのである。
さてそれで、高度成長期のことである。
墨で教科書を消した世代の子供が、昭和30年代におとなになって実際のわが国の「科学技術」を支えたのだと改めて言われれば、「その通り」である。
これを指摘しているのは、自身のことも含めて養老孟司氏が語っている。
また、その場が「ソニー」の社内研修らしい。
「科学や技術はうそをつかない」
だから、没頭できたのだと。
世の中の価値観が1日にしてひっくり返ったトラウマが、「絶対に信じることができる」を「科学技術」に求めたのが、暗黙の了解のすべてだった、と。
やや角度を変えた発言をしているのは、武田邦彦氏である。
「科学や技術はうそをつかない」から、「うそでかためた研究は、必ずダメになる」と。
その「うそでかためた研究」とは、昨今の「環境問題」や「コロナ禍」を指している。
これを裏づけるのは、自ら国連「気候変動政府間パネル(IPCC)」に10年関わった、杉山大志氏の冷静な指摘である。
杉山氏は、IPCCの活動は、限定されていて「調査することのみ」と規定されていると断言する。
つまり、一切の政治的「提言」などは、してはいけないという既定が国連にあるというのだ。
これは、科学者の研究を支援はするが、結論の一部も政治利用しないための歯止めでもある。
ところが、「現実」はそうはなっていない。
むしろ、あたかもIPCCの提言が前提にあるがごとくの扱いにみえるのだ。
一方で、随分古い(おそらくレーガン時代)のインタビュービデオが、HARANO TIMESさんが日本語訳を付けて披露している。
話しているのは、旧ソ連のスパイで、ギリシャ → カナダ → アメリカに亡命したロシア人である。
カナダにいたのは、ソ連におもんばかったアメリカが直接の亡命を拒否したからであるとも語っている。
さまざまな「主語」を現代に入れ替えると、彼の「共産主義の説明」と、自由圏の無防備が、まったくもって「現代」にそのまま当てはまる。
いったん共産主義に染まった人間の脳は、二度と回復しない。
それは、どんな「事実」を突きつけられてもであって、身体的苦痛でしか洗脳の解除(逆洗脳)は不可能だという。
そして、カナダから念願のアメリカに入国したとき、彼は、「ソ連共産党」の「仕掛け」が、アメリカ人の日常にしっかりと浸透していることに、何よりも驚いた、という。
さて、このインタビューが放送されたとき、アメリカ人の視聴者は、何を言っているのかわからなかったという。
おそらくいまも、何を言っているのかわからないひとは多数であろう。
しかして、わが国のメタファーは消失し、杉山氏や武田氏の指摘を受けても、すっかり洗脳から醒めない状態になってしまった。
脱炭素はわが国産業を破壊する。
フラットな発想をする「凡人」が、科学技術産業のトップを務めているのに、株主はそれでいいのか?
破壊されてから気づいても、遅いのである。