無店舗ホテル

「モジュール化」が話題になったのは2000年にはいってからだったようにおもう.
当時は,もっぱら製造業のはなしだった.しかし,突き詰めれば,どの業種でも適用できる概念だ.

「部品」とはなにか?

旅館という「サービス業」でかんがえると,客室や風呂,食堂が「部品」というのではなく,客室清掃や風呂管理,調理と配膳といった,「業務」を「部品」にみたてることで,それぞれの「規格」をきめると「モジュール」になりえるとかんがえるのだ.

「モジュール」は,「モジュール」というひとくくりで取引の対象になるから.上記のそれぞれの業務も,取引の対象になっておかしくない.
むかしから,調理なら司厨房士協会,宴会などのボーイやらは配膳会が請け負っている.これらは,「モジュール」のはしりであろう.近年では,ホテルなどの客室清掃も,清掃会社への業務委託が主流になった.
なんだ,その程度なら,というのではない.「モジュール」は,より細かな「規格」が重要なのだ.だから,上述の例は「はしり」なのだ.

「サービス」が「モジュール化」するとは?

背広といえば「テーラーメイド」がふつうだった時代から,戦後になって「イージーオーダー」が全盛をほこったときがある.これを可能にしたのは,簡易に修正できる部分だけ寸法をとったことによる.デザインは一定だからできた.

つまり,サービスのデザインを設計・記録し,そのなかから修正できる部分で対応すれば,イージーオーダー以上のサービスが可能になる.そのとき,「部品」ごとの修正可能性を決めれば,専門会社に外注できる可能性があるという意味だ.

これの例は,すでに大手ホテルも導入している,プロの婚礼コーディネーターや,一部地域では売店の業務委託で売上を数倍にしたところもある.
婚礼は,新婦の希望がつよく反映されるものだが,それをさらにプロが磨いてさしあげることで,一段上の満足を買っていただくことが重要だ.そうして,参加者のなかから,あたらしい需要が生まれるからだ.ところが,こうした提案ができるレベルまで,社員を育てるのには時間も経費もかかるから,これを専門家というモジュールに任せるのは合理的である.

究極の資本と経営の分離

宿泊業で,「資本と経営の分離」をいうときには,政府の「観光白書」にもあったように,土地と建物所有者(資本)と,ホテル事業の経営や運営をするひとを分けて,別々にすることをさした.家賃形式でも,業務委託(MC:マネジメント・コントラクト)形式でもいい.

歴史のある宿ほど,資本と経営が一体であり,残念ながら,その家に生まれたけれども,経営の才覚がないひとが経営にたずさわるしかなく,経営そのものが傾いてしまうという例があとを絶たなかったために,国や金融機関,再生専門家に推奨されたものだ.

それで,ホテル経営会社や運営会社がたくさん生まれた.これらの会社は,自社で不動産(土地・建物)を所有せず,オーナーとの契約によってホテル事業をおこなうものだ.

じつは,世界最大のホテルチェーンである,ヒルトン・インターナショナルや,スターウッドグループなどは,上述の方式で店舗拡大を積極的にすすめたのだ.自社でホテルのための不動産を所有しながら拡大するには,莫大な資金が必要になってしまい,それは経営リスクを高めるという判断からだ.
これに対して,日本の宿泊業界は,経営難が理由で運営会社にならざるを得なかった,という事情がある.どんな事情であれ,世界をみればべつに恥ずかしい事業形態ではないのだが,日本では従業員も萎縮してしまうという,なぜだか不思議な現象がみられる.

その日本では,ビジネスホテル分野での浸透はずいぶんと進んだ.どこの街に行っても存在するホテルチェーンは,資本と経営の分離というモデルで拡大してきたからだ.ところが,高級ホテルの分野では,なかなか進んでいない.また,高級旅館の分野では,有名な一社の独壇場になっている.大衆的な旅館は,「破綻処理」というスタートラインがふつうになったので,こちらは「買収」という形態だから,資本と経営は一体である.

すると,「高級」なグレードでなぜ資本と経営の分離が進まないのだろうか?をかんがえると,おそらく,「経営ノウハウ」や「運営ノウハウ」を確立したところがないからであろう.
「ノウハウ」とは,それが書いてあるだけでも価値があるものだ.だから,ビジネス取引の対象になる.「高級」なホテルや旅館は,イレギュラー対応もおおく,その運営には独特のやり方があると信じられてきた.それは,そこでしかない「ノウハウ」だから,汎用性がない.
しかし,汎用性がないものを「ノウハウ」と呼ぶべきなのか?

ホテルや旅館を一社の経営体や運営体がひきうけるとかんがえるから,「ノウハウ」の壁にぶつかる.数人で構成する経営体が,モジュール化した運営体をたばねれば,これまでの不可能が可能になるのではなかろうか?

地域に就労人口が少なくなった地方の宿泊業こそ,こうした方式の活用しか存続できなくなるのではないか?モジュールの従業員には,期間がきまった出張や異動,と位置づけることで,人口の多い地域からの移転が可能となる.これが,一生そこに住む,イメージとの決定的なちがいだ.

モジュールからみれば,それは「無店舗ホテル運営」になる.

 

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