むかしは、「切れ者」のことを「カミソリ」と呼んでいた。
プロが使う片刃から、刃の角度を固定する両刃カミソリができて、ひげ剃りの形状がどんどん進化した。
それから、「2枚刃」が登場した。
これは、という「切れ者」のことを「2枚刃」と呼んだ。
いまは、5枚刃までにひげ剃りは進化したけど、「5枚刃」と呼ばれる切れ者はいなくなった。
むしろ、ほんとうに5枚も必要なのか?
カミソリ・メーカーは、「電気ひげ剃り」をライバルにしているのだろうけど、いわゆる、「ウエット・シェービング派」からすれば、「電気」のそれは完全に「別物」である。
個人的には、30代までは「電気派」だった。
長距離フライトだと、寝起きの「電気振動」と「ジャリジャリ音」が機内で一斉に始まったのがなんだか懐かしい。
わたしのひげは、柔らかくて左アゴ下に「つむじ」があって剃るのが難しい、と床屋のベテラン理髪師にいわれた。
そもそもが「電気」のそれだと、剃り残しができるのだけど、この一言で「理由」がわかった。
愛用していたドイツ製の電気ひげ剃りが寿命を迎えたので、懸案の「T字カミソリ」を購入した。
初めてのそれは、アメリカ製のものだったけど、世界シェアで圧倒的なメーカーのものではなくて、日本で圧倒的なシェアのメーカーのものだった。
この構図がいまでも変わっていないのは、愛用者が浮気をしないからだろう。
「この手の商品」は、浮気をすると高くつくからである。
それでもメーカーは、いろんな「機構」や「機能」を開発して、例えば、「首振りヘッド」は、いまでは常識になっている。
これが、「乗り換えキャンペーン」になって、消費者は好みのメーカー内の商品を「お試し」させられている。
ところが、同じメーカーの新商品は、従来品と全く別の構造なので汎用性がなく、別メーカーの商品に乗り換えるのとなんら変わらない。
しかも、ライバルの別メーカーも同じような時期に新商品を出すので、「お試しセット」がぶつかり合うのである。
消費者として悩ましいのは、「替え刃」が高価なことである。
いまのアメリカ製2大メーカーのそれの「高さ」は、驚くほどで、長く使おうと「替え刃」を購入すると、高級電気ひげ剃りが購入できる以上の「出費」を強いられることになる。
すると、これらのメーカーは、確信的に「電気ひげ剃り」がライバルとは考えていないということに気づくのだ。
そこで、涙ぐましい抵抗として、本体(柄)よりよほど高単価な「替え刃」がなるべくたくさん付いている「お試しセット」ばかりを買って、「替え刃だけ」を買わないという「手」を実行するのである。
そんなわけで、わが家の洗面所には、ずいぶんな数の本体が眠っている。
さて、以上は、アメリカ製のひげ剃りの話である。
そこで、日本製はどうした?ということになる。
ドラッグストアの片隅に、なんだか「ひっそり」とたたずんでいるのが日本製のそれだ。
「いい物を安く」という「良心」といえばその通りで、文句をいう話ではないのだけれども、アメリカ製のと比較すると、あまりにも安価な「替え刃」に、かえって怯むのである。
しかし、わたしのささやかな抵抗感が後押しして、「買い物カゴ」に入れたのだった。
「両刃」の場合、日本製のものは「切れすぎる」という問題があって、ひげ剃りの度に出血する難がある。
「百均」にあった、韓国製の「なまくら度合い」がちょうどよかったけど、棚から消えてしまったのは残念だ。
だから、いかに安価でも、これまで購入を躊躇してきたし、高級ホテルにあるものも「これはいい」と思ったためしがなかった。
ところが、期待値が低かったことだけではなくて、実際に遣い心地は悪くない。
その意味で、わたしのアメリカ製からの脱却が完遂したのである。
特に、最近の「主流?」になっている、「5枚刃」は、鼻の下とかの狭いエリアを剃るのに不向きだ。
カミソリ・ヘッドの大面積が、必ず「剃り残し」を作るのである。
アメリカ人の鼻の下は、そんなに長いのか?
日本製のすごさは、自社「替え刃」なら、どんな種類の本体にも合致する設計になっていることだ。
これは、「終売」したものにも適用される。
そこで、いま販売されている「替え刃」は3種類あって、どの本体にも使えるのだ。
「専用」ばかりのアメリカメーカーからしたら、おそるべき儲からないシステムになっているのである。
「2枚刃」が1種類、「3枚刃」が2種類ある。
「刃の数」は、何を意味するかといえば、刃にかかる圧力の集中と分散である。
1枚の両刃が、深剃りでは一番だけどもっともひげ剃りテクニックを要するように、加減によっては肌を削ってしまう。
2枚刃は、両刃ほどの難易度はないが、本体の構造がシンプルゆえに、やはり加減のテクがいる。
このメーカーに、3枚刃が2種類あるのは、刃の前と後にある、「ガイド」の違いだ。
そこで、どちらがよいかがユーザーの議論になっている。
もちろん、使ってみないとわからないから、両方を購入したひとたちによる「好み」となる。
ところで、このメーカーには、5千円ほどもする「本体」がある。
材質とヘッドの首振り構造にお金がかかっている、「一生もの」である。
これも、アメリカのメーカーにはない発想だ。
やっぱり、「日本的」なのである。