難癖をつけて、あいてをゆすったりたかったりするのは、堅気のやることじゃない、という価値観から、正義へと転換がはじまっている。
国家という中央政府や自治体という地方政府に依存すると、個人の自由が侵される、というセオリーどおりのことになっても、ひとびとは気がつかないばかりか、「得」だと思いこむのである。
このちいさな損得勘定が、社会全体の「損」を拡大し、あるとき、その負担の重さに驚くが、そのときには、またまた「得」だというひとがあらわれて、絶望的な不自由がやってくる。
これは、けっしておとぎ話ではない。現実なのだ。
静岡県知事とJR東海とのあいだでおきたリニア新幹線工事をめぐるバトルは、だんだんと静岡県知事の構想が明らかになってきた。
南アルプスを貫く長大なトンネルは、大井川の水量を減らす可能性がある、という懸念から、水利慣行をめぐる反対運動になった。
これに、JR東海は、トンネル内からの排水はすべて大井川に流すとしたが、「懸念」は消えていない。地面のなかがどうなっているのか?は人知の知るところではないからだ。
そのため、静岡県を通らないルートを検討すべきという、いまさらの話を知事がいいだした。
神奈川県や山梨県、長野県、岐阜県と、名古屋までのリニア沿線の県には「駅」が計画されているが、静岡県はまさに山岳地帯のため、沿線で唯一駅の計画はない。
リニア中央新幹線計画は、全額JR東海の負担で建設され、一駅当たり800億円が必要といわれている。
そこで、800億円のおカネに目をつけたのか、おなじくJR東海の東海道新幹線に新駅設置の要求をした。
それは、静岡と掛川の中間に位置して、知事になった理由だと議会で発言した、富士山静岡空港の真下に駅をつくることを、あからさまに要求したのだ。
これに、愛知県知事が不快感をあらわにしたのは、このところのニュースになった。
これは、一般的に「ゆすり」とか「たかり」という。
川勝平太というひとは、もとは学者ということになっていて、『文明の海洋史観』が有名である。
知の巨人といわれた梅棹忠夫『文明の生態史観』のパクリともいわれたものだが、インスパイアされたのだといえば、そのとおりである。
その意味で、政治家が学者をやっていたのか、学者が政治家になったのかは議論があるところである。
なんとなく、泳ぎがうまい、のである。
静岡県といえば、わが国では珍しい「保守系」新聞社、静岡新聞がある県だけど、こういう不道徳なひとが何回も選ばれるのは、新聞を読むひとも減っているからなのだろう。
新駅をつくるおカネは静岡県民のおカネではなく、JR東海だけど、そのJR東海はどこから調達するかといえば、JR東海の利用客からでしかない。
薄く広く徴収されることに、まったく抵抗がないというひとの専門が「経済学」なのだから、どういうことか?
きっとマルクス経済学の大家なのだろう。
南アルプスは、現在、地球最大の隆起をしている山岳地帯で、年間4㎜である。中央アルプス、北アルプスと連続するのは、太古のむかしにフィリピンプレートに乗った伊豆島が本州に衝突してできた地表の「シワ」なのだ。
インド島がユーラシア大陸に衝突してできたのがヒマラヤ山脈だが、こちらは年間2㎜の隆起で、南アルプスの半分しかない。
億年単位で計算すれば、南アルプスがヒマラヤを越える高さになるのだ。
つまり、伊豆島の本州へのめり込みは、いまも続いていて止まってなどしていない。
不思議なのは、伊豆島の衝突とめり込みを祀るのが、三島市にある「三嶋大社」だ。むかしのひとは、なにかに気づいたのだろうか?
「三嶋」は「御嶋」で、伊豆諸島を指すというが、わたしは勝手に伊豆島自体のことではないかと想像している。
年4㎜であることは、10年で4㎝、100年で40㎝も隆起する。
こんな場所にトンネルを掘って、時速500㎞で疾走して大丈夫なのか?
もちろん、地元の地質学にくわしいひとたちからの懸念に、JR東海は、安全です、と明言している。
知事は、こちらの方が気にならないか?
全体計画のなかでの小数による反対意見は、チバニアンでみたごとく、無視されるか敵視されるようになる。
だから、地質における懸念は放置されるのだ。
ちなみに、チバニアンの現地、市原市が市長と副市長の公用車としてテスラの高額電気自動車2台を導入する件で、議会が「違法」とした決議が一票差で否決、計画どおりの導入がきまった。
「環境にいい」そうである。
負担は、個人に薄く広く。
この薄さが、束になって、積み重なるのである。
そうやって、自分のおカネが他人のためにつかわれる。
これを財産権の侵害だと、だれもいわないばかりか、なんだか得をしたとおもうのだ。
どちらさまも、天から降ってくる、気になるのはおカネなのね。