英国で,EU離脱相につづいて外相までが,メイ政権のEUとの穏健路線を批判して辞任したというニュースがやってきた.これぞ、「政権を揺るがす」大ニュースだ.
以前,「日本はEUに加盟できない」ことを書いた.だから,離脱もできないのだが,もしも,EUに加盟していて,それに不満があったとしたら,果たして英国のような選択はわれわれにできるのだろうか?
おそらく,できないだろう.
無意味な議論ではあるが,これをシミュレートすることで,わたしたちの国としての姿と,わたしたちの国家観がみえてくるはずだから,ムダではなかろう.
そもそも,英国がEUから離脱するとした予想は,わが国ではほとんど冗談扱いだった.
しかし,英国人の友人は,EUに対してどう思っているのかをわかりやすく以下のように説明してくれた.
「首都が北京で,最高裁判所がソウルにあるようなもの」.
それで,「東京の『国会』で決まったことが,北京の官僚に否定される」ような状態で,最高裁まで訴えても,「反日世論」でつぶされるのを受け入れるしかないのだけど,これ,日本人は耐えられるか?と.
実際の首都はベルギーのブリュッセルで,裁判所はルクセンブルクにある.
今年の7月2日だから,8日前になるが,EUはポーランドの最高裁判所の判事の任期に関する国内法について,「EU憲法」と「EU条約」に「違反」しているとして「違反手続き」にはいった.つまり,これから「EU官僚」によって是正処置が「命令」されることになるはずだ.
英国人の友人のいうとおりのことが現実なのだ.
「国家の独立とはなにか?」という,抽象的できわめて政治哲学的な議論が,いまこの時間に,わが国の裏側にある英国という地域で激論がかわされている.ついでに,陳腐ではあるが「民主主義」下における決定についても議論されているのは当然である.
なにしろ,国会で決まったことが,「首都の官僚」から否定されたら,審議のやり直しをしなければならないから,「国会」も,「議員の選挙」も,なんだったのか?になってしまう.
歴史的に,「名誉革命」を経てつくりあげてきた「民主主義の本家本元」として,英国人の気質にまったく合致しないのがEUなのである.
それで,今回辞任した外相が,「英国はEUの植民地になる」と警告したという.
大英帝国として,植民地とはなにかを知り尽くしている経験があるから,これは言葉遊びではない.
さて,おそらく日本という国にあてはめたら,こうした英国での議論とはまったく裏腹に,「経済価値」だけの視点で議論されることだろう.
昭和40年代に,「エコノミック・アニマル」と諸外国からいわれたことが思いだされる.
パキスタンのブット首相による「褒め言葉」という説もあるが,そのニュアンスで広まってはいない.
ちなみに,「平成の米騒動」(1993年:平成5年)として記憶にのこるタイ米との抱き合わせ販売が常態化したとき,タイ米の不味さがとにかく話題になって,とうとう白米しか食べずにタイ米を廃棄するという事態が出現した.
このとき,パキスタンをはじめとした途上国は国連で「日本は不道徳な国だ」といって日本を名指しで批難したが,日本での報道は皆無だったから,おおくの国民はしらないだろう.
ついでに,タイ米の調理法もしらなかった.
不足トン数を埋め合わせるだけの目的で,札束切ってタイ米を買いあさったため,米の国際価格が一気に高騰して,途上国では深刻な食糧不足どころか栄養不足になっていた.その米を不味いといって廃棄する国は,たしかに不道徳である.
まったく同じことを昭和14年にも日本はやったが,これを記憶しているひとはもういない.もしかしたら,ブット氏は覚えていたかもしれない.加害者は忘れ,被害者は記憶する.
この件で,日本は一時東南アジア諸国の信用を失ったが,平成の米騒動は日本という国の野蛮性を再確認することになった.
EUから離脱したら,「損」か「得」か?
この議論には,「独立国家」という概念がみじんもない.
金勘定しかできない国は,世界から尊敬を得ることはできない.
そして,「寄らば大樹の陰」とばかりに,盲目的にEUに依存するなら,それは「事大主義」にすぎず,まさに「植民地になってしまう」おそれがあるが,だれも気にしないだろう.
日本はやっぱりEUから離脱できない.
EUに加盟できなくてよかった,ということだ.
しかし,あらためて書くが,日本がEUに加盟できないのは,地域要件を満たさないことだけではなくて,経済要件も満たさないのだ.
あんのんとはしていられない.
これが現実である.