話の「すり替え」と「過剰反応」をした相手に「便乗」という姑息な手段をすると、どんどんちがう方向にむかって、最後は収拾がつかなくなるものだ。
G20が終わったらでてきた、フッ化水素などの半導体製造に欠かせない物資の輸出にかんして、日本政府は韓国の待遇(最優遇)を一段落とす処置をするとした話が、いつの間にか「禁輸」になった。
たしかに従来は、スムーズな輸出が可能だったから、いちいち書類をそろえて審査を受けなければならないのは厄介だが、「禁輸」ではない。
甘えの構造がある韓国側が、過剰反応して「禁輸」だとし、結局、製造できなくなった半導体を日本に輸出できないから、困るのは日本だ、という「解説」まである。
徴用工裁判で賠償命令をうけている会社の名誉会長をしている日商会頭が、「過剰反応だ」という発言をしたのは、冷静な態度だろう。
そもそも、このはなしが登場したのは、その徴用工裁判の韓国大法院判決があった直後(昨年10月末)であった。
しかし、このタイミングでも遅い話であった。
北の核開発に関して、韓国がフッ化水素を北に密輸していたことがバレたのである。フッ化水素がないと作ることができない物質を北が製造していることがわかったからである。
フッ化水素の製造は、世界で日本が独占的な立場にあるのは、さいきんの報道でもあきらかだ。
すなわち、この「密輸」は、日本製品を韓国政府が北に渡すという三角貿易状態だということだ。
これは、「国連決議」に違反する。
もちろん、最悪なのは韓国政府であるが、それを承知で日本も韓国に輸出しているとなると、日本も連座する。
すなわち、韓国だけでなく日本も国連から制裁をうけることになるのだ。
この報道は昨年11月にされていて、フッ化水素の輸出制限(禁輸も含む)は、日本政府の独自判断ではなく、国連や米国からの指示になるはずだ、と記事にある。
その後、レーダー照射問題もあったが、日本政府はモタモタしていて、とうとう半年以上もたってから「制裁する」というはなしにすり替わった。
きっとG20の事前事務協議で、「あっち」と「こっち」から「はやくやれ」と催促されたはずで、日本の首相が韓国大統領に会わなかったのも、このための演出だろう。
つまり、昨年の徴用工判決の時期に「やる」とみられた話が、オリジナルの密輸の件から徴用工問題への「制裁」になって、相手が過剰反応したら総理すらインタビューで「信頼関係が損なわれた」と発言しているのだ。
しかしこれは、微妙な表現だ。
あたかも、徴用工判決に対してや、レーダー照射問題など、一連の問題をいっているようにもとれるが、もともとは韓国による北への密輸が原因なのだから、どこまでも優しい「日本政府」というメッセージにもきこえる。
もちろん、国際的に禁じている物資を密輸したのだから、「信頼関係は損なわれた」のは当然で、総理の発言にまちがいはない。
ちゃんと言質をとられても、いかようにも説明できることしか言っていないのは、官邸スタッフの忠誠心からか?
すると、韓国内で批判をあびている現政権が、なんだかのんびりムードだったのは、このことかとうたがいたくなる。
密輸がバレたのは昨年の10月だから、いつかはやってくる話なのにだ。
日韓ともに左派政権としては、これで国連にもアメリカにも言い訳ができるというものだ。
こうして、あたかも、日本が経済制裁を「友好国(であるはずの)」の韓国に実施した、ということが、ひとり歩きをはじめてしまった。
けんかをする覚悟がない国の、受験優等生がつくるシナリオに、迫力がないばかりか、一歩も踏み込まないから、トランプのように後からゆるめる「譲歩」もできない。
なんのことはない、最初から「譲歩」してしまっているので、オプションがないのである。
かつての国是「全方位外交」という「八方美人」では、国際的信用は得られない。
事務手続きが「経済制裁」になる。
これぞ、日本の役人がだいすきな「嫌がらせ」という国際的評価なら、日本国民としてよろこべる話なのか?
国際的「パワハラ」をして、それが正義というなら、神奈川県の葉山町消防本部における「パワハラ停職」と大差ない。
本人は事実関係を認めたうえで「指導の一環と思っていた。命を預かる仕事なので規律を厳しくしたかった」と話しているらしいが、これをフッ化水素の密輸問題だとしても意味はとおる。
ちゃんと「制裁」するなら、第三者からみても「制裁」だとわかることをしなければならない。
姑息な手段によれば、ただのイジメを正当化するガキのようだ。
「EUも韓国を最優遇していない」
こんな言い訳をする「制裁」があるものか。
韓国がいう「禁輸」とは、北を対象にしているのに、すっかり「統一」された気分だから、主語が一緒になるのだ。
「信賞必罰」これがルールである。
まことに残念な話だ。