香港がこわれていく

まだ平成で、しかも昭和天皇の「天皇誕生日」でもあった、ことしの4月29日、日本人がたのしい連休にうつつをぬかしていたときに、香港が荒れていた。

気がつけばもう5年前になる「雨傘デモ」で、香港「セントラル」が埋め尽くされて街の機能がマヒしたのは、行政長官の選挙制度が、北京政府の推すひとしか立候補できない、という改正案に反対することが目的だった。

けっきょくデモの主張は敗れ、原案どおりの制度になって、いまの長官が選ばれた。
これを公平な選挙というのか?
といえば、「選挙」である、というのが北京のロジックなのだろう。

なにせ、日本の国会にあたる、とわざわざ説明する「全人代」という「会議」も、党が立候補しろときめたひとしか立候補しない「選挙」で選ばれたひとたちのあつまりだから、それとおなじ「選挙制度」に正したのだ、という主張は、ダブルスタンダードこそが道徳である社会では正当なものだ。

しかし、香港は、返還の条件として「一国二制度」という原則をまもる、ということだったから、香港人からすると、自由がなくなる、という切羽詰まったことと同時に、約束がちがう、ということになるのは、ダブルスタンダードは悪だという道徳がある社会だからである。

それで、こんどの大規模デモは、犯罪容疑者の北京への引き渡しを可能にする法案に対してのものだ。

なんだ、悪いことをしたひとをどこに移送しようがどうでもいいじゃないか、にならないのは、対象が「容疑者」だからである。
これなら、ダブルスタンダードを道徳とするひとたちなら、だれでも容疑者にすれば北京におくって、すきなように裁けるということになる。

行政府長官は今年7月までにこの法案をとおす、と発言しているから、このデモの攻防はこれから盛り上がるだろう。
それに、おそらく「みせしめ」なのだろうが、5年前の雨傘デモを首謀したという大学教授ら4人に、禁固刑がいいわたされたばかりである。

もはや、香港が自由を喪失すれば、これまでの繁栄とはちがうことになるのは確実だし、「一国二制度」という方便が、ただの「うそ」だったことの証拠にもなる。
それで、香港の経済人にも警戒感が強まっている。

日本の経済界、とくに経団連は、みごとなトンチンカンぶりで、そんな北京といまこそ仲よくしようとしているから、世界情勢にすら疎くなっている。
それは、トランプ大統領がしかけた「貿易戦争」で、ヘロヘロになった北京が日本に擦りよってきたことをチャンスと勘違いしているからだ。

どうしてこんな老害爺さんが、財界総理でいられるのか不思議だし、国民に害あって利益なしだから、はやく経団連は解散すべきである。
看板をオリジナルの「産業報国会」にしてみたら、ぜんぜん報国にならない団体に落ちぶれた。

5月5日に、まとまりかけたと日本のマスコミがいう「貿易戦争」だったのに、いきなりトランプ大統領が25%の関税を宣言して、ニューヨークの株価も下がったことを、そらみたことか、と揶揄するのもいかがなものか?

香港のひとたちからすれば、トランプ大統領が英雄にみえたはずである。

アジアの金融センターは、とっくに東京ではなく香港になっているし、グローバル企業のアジア本部も、香港かシンガポールにあって東京ではない。

東京は支店か出張所で、香港かシンガポールに支社がある。
内紛のリクシルで話題の創業家は、本社をシンガポールにするといっていたこととおなじである。

なぜか?
傲慢な日本の役人がきめた、つまらない法規制が、東京の経済センターとしての魅力を喪失させたからである。

たとえば、金融商品取引法(金商法)では、あたらしい金融商品を売買するときに、「重要事項説明」をしなければいけなくなった。購入した客が、理解不足であとから損をしても、説明不足だったら売った会社のせいになる。

この役人の発想は「優しさ」ではなくて、たんなる「お節介」で、おかげで決済機能があるスマホの契約に何時間もかかることになった。
この生産性を低下させるだけのルールの根拠に、「国民は基本的にバカ者しかいない」から、「かわいそうなので保護する」という発想しかない。

このルールを国内にある外国の銀行だけでなく、外国にある外国の銀行にも要求したから、日本人客には「重要事項説明」をしないといけなくなった。

ならば、外国にいって外国の銀行に口座でもつくろうか、とはならず、ぎゃくに「日本人お断り」、になったのは、(英語がわからないバカな国民だから)「日本語で」説明しろと迫ったからである。
これが、日本政府が一生懸命に仕事をしたという姿だ。

そんなわけで、国内からも外国の銀行が撤退したが、それを、ガラス張りのビル群をつくって、「魅力的な東京」と自賛する神経は、北京なみになっている。
日本人は、海外ではあたりまえの金融サービスを受けることができないから、この分野では「鎖国」が成立している。

香港の経済センターとしての機能が攻撃されていることに、日本が無頓着なのは、まさか、香港から東京に移転するのではないか?と棚からぼた餅を期待しているのではあるまいか?
愚かなことである。

軍事力でなくて経済力で中国を締め上げる、トランプ大統領を熱い視線で見つめるのは、香港だけではない。
もちろん、台湾だ。

なんと、シャープを買収したひとが、国民党候補として総統選挙にでるという。
大陸で「100万人を雇用」している会社の長だ、という目線ではなく、どうして100万人も雇用することが「許されたのか?」が重要なのだ。

つまり、あちらの「党と一体」だということだ。
シャープはほんとうに「向こう」の会社に売却された。
しかし、それで経営が復活するのだから、日本人の経営能力はおどろくほど「低い」ことをいみする。

北京と手を組めば儲かる、という田中角栄以来のパブロフの犬のような反応しかできないなら、香港と台湾が北京の支配下にはいったら、どんなことになるかを想像もできないのだろう。

この悪夢を想像できているのが、トランプ大統領ではないか?

香港も台湾も、北京は手を出すな。

これが、彼の主張であり、アメリカの縄張り意識である。
ブレグジットでうごけない、イギリスのかわりに、香港の面倒もみる、という態度こそ、同盟のあかしである。

ならば、日本は同盟にあたいするのか?

おおくの国民がタカ派だと信じている安倍内閣が、香港をガン無視しているすがたは、まったくもって意志をかんじない。
それで、日本はアジアの盟主だと自認するなら、とんだ裸の王様である。
経団連と同様に、政権政党たちも落ちぶれた。

しかして、しんぶん赤旗が、冒頭のデモを4月30日付けできちんとつたえている。
共産党がまともに見える。

これは、ダブルスタンダードか?

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください