ホテルや飲食店での「食べ放題」を,日本では,「バイキング」と呼んでいたが,近ごろでは,メニューから自由に選んで注文する方式も人気だ.
小田原北条家の滅亡にかかわる「食」のエピソードとして,北条氏政の「汁かけ話」がある.父の氏康との食事で,氏政がご飯に一度汁をかけたところ,少なかったのでもう一度かけなおした.これを見た,父氏康が「これで北条も終わりかと嘆いた」という.毎日食事をしていながら,成人になって汁の量もはかれぬ者に,領国や家臣,領民の生活経済を推し量ることはできないから,戦国武将家として維持できない,という意味である.氏政の名誉のために付け加えれば,後世の作り話であるそうだが,説得力のあるはなしである.
食品業界では,消費期限や賞味期限の表記に工夫をして,なんとか廃棄量を減少させたいと活動しているが,「食堂」業界では,食べ放題を推進している.もちろん,「持ち帰り禁止」とか,「食べきれる量」という注意もあるようだが,おおくは利用客の「モラル」に依存している.
「育ち」とか「お里」ということをあまり言わなくなってきた.「食事の躾」は,とくに大人になってから目立つようになって,場合によっては一生を左右することにもなりかねない重要事なのだが,「そのとき」では間に合わない.まさに,「育ちの悪さ」や「お里が知れる」瞬間である.これまでの「訓練」が,ついうっかりでてしまうからだ.
だから,重要事にはたいがい「お食事」がつきものである.わが国の最重要お食事会とは,宮中晩餐会であろう.だれでもがこのような席に招待されるものではないから,自分には関係ない,というむきもあろうが,下々とて,人生における重要事に「お食事」はつきものだ.「節句」もそのうちのひとつだろう.「お誕生日会」がこれに加わり,学校給食も日常事での「お食事会」である.けだし,「躾けの要素」がどこまであるのかはよくわからない.いまだに戦後の欠食児童や栄養不足が気になるのか,学校給食ででてくる話題は,「栄養」と「産地」それと,「未払い問題」ばかりである.
お嬢様学校の伝統として,「テーブルマナー」があり,その実地場所として高級ホテルが選ばれていた.講師はホテルの「ボーイ長」で,マナーだけでなくエチケットも教えていた.「花より団子」のお嬢様たちは,料理のおいしさに酔いしれるのだが,数年後の「お見合い」の場面で,効果を発揮できた.男性側は,たいてい背中に冷や汗をかいていたと思われるが,優雅に食事を召し上がるお嬢様にぞっこんさせるためのアドバンテージをあたえていたのかも知れない.いや,良家のお坊ちゃまであれば,付け焼き刃のマナーなど,簡単に見破ったにちがいない.
そんな男性も,社会に出れば接待という「お食事会」がつきまとうようになり,また,社内行事でも幹部との「お食事会」があった.外資系では,週末に上司の家へ呼ばれての「お食事会」は,いまだにふつうのことだ.ここで,かなりの確率で「育ち」と「お里」が評価される.
品のない女子高生グループが,とあるレストランで「食べ放題コース」を楽しんでいる光景を目撃したことがある.お下劣なマナーで,大量の食べ残しの山を築いていた.一口食べて「まずい」といって皿に投げつけた者もいた.ああ,この中から間違っても嫁にしたら,またたく間に貧困家庭になってしまうと思った.