「グレード・ダウン」の勧め

パソコンのOSなら良くある話で、バージョン・アップ直後だと信頼性に欠けるからわざわざ古いバージョンでガマンすることがあるし、場合によってはグレード・ダウン「させる」ことすらある。
これは、内部にある様々なアプリが、新バージョンに対応していない可能性を回避したいからだし、周辺機器、たとえばプリンターなども正常に作動しないことを嫌うからである。

すると、ユ-ザーに販売したひとたちは、アプリケーションソフトだけでなくて、機械の製造者も、OS改訂の「事前情報」から、すみやかに対応しないとユーザーから見向きもされなくなる畏れがある。
つまり、こうした点からも、製造企業ですら「情報産業」だと言えるのである。

情報機器を作っているからではなくて、情報によって製品に内蔵したシステムの改訂をしないといけない、という意味である。

いつまで経っても、OSのバージョン・アップに対応しないで、プリンターが正常作動しないことを放置されたら、ユーザーは買い替え需要が起きたとき、その製品をなるべく「買わない」という行動に出るからで、これが、「一般的評価」となったら、そのメーカーの全商品がそういった「評価」となって、必ずや「経営危機」をむかえるであろう。

ユーザーにとっての「日常」が、OSによって支配されているパソコンの操作にあれば、以上のことがふつうなのである。
だから、アプリケーションであろうが、機械の製造者も、OSのバージョン・アップに対応させる、という業務が自社の都合に関係なく発生しても、そのままにしてはおけないのは当然だ。

こんなことを思うと、わが家に設置した、とある大メーカーの「電話・FAX複合機」は、まったくの「失格」だ。
「売り」として、販売時に挙げていた製品特徴の、パソコンとの受信データ共有はできても、「パソコンデータのFAX発信」機能が、OSのバージョン・アップに「対応しない」と堂々と発表したからである。

しかも、この手の機械は、十分な耐用性があるから、壊れない。
メーカーが定める、部品の対応期間を大きく超えても壊れない。
それで、機種交換需要が発生しないのである。
いまや、FAXを受信することも滅多にないし、その返答にFAXが指定されることも稀だ。

「稀」だけど、「ない」ということもない。

どういう理由か知らないが、「自治会」とか「町内会」の連絡は、いまだにFAXだったりする。
仕方がないので、受信したFAXデータをメモリからパソコンに取り込んで、パソコンで加工したら、「紙」に印刷して、これをまたFAX送信している。

紙に印刷させて受信しないのは、「感熱紙」という高価な紙をつかうからである。

さて、わが国を代表するようなこのメーカーが、どういう理由でOSのバージョン・アップに対応しないことを決めたのか?
創業者の幸之助氏が亡くなったからだ、と考えた。
もちろん、幸之助氏が生きていたら、こんなことを決めはしなかったはずだからだ。

しかし、ここでいう「生きていたら」というのは、幸之助氏が超人的な長生きをしたら、という意味ではない。
「精神」の話なのである。
つまるところ、幸之助氏の「精神が死んでしまった」のだ。

それはいつからなのか?

一般消費者として思い当たるのは、「社名変更」の前だろう。
社名から「松下」を取り除くことに、社内の抵抗がなくなったからできたのだ。
もちろん、だったら社名変更をしなければよかったのか、という意味でもない。

「精神」が失われたら、社名が残ろうと関係ないし、むしろ「松下」に違和感が生じる。
だから、必然的に社名の変更となる運命にあったといえる。
そんなこんなで、わたしは残りの人生で、この企業の製品を無意識に購入することはない、と決めた。

同様製品で別会社のものがあれば、そちらを優先して購入する。
それがまた、幸之助氏が示した「経営の本質」の、消費者としての態度である。

そういえば、幸之助氏は「松下政経塾」という学校もたてた。

天下国家のため、だったろうけど、グレード・ダウンしたらいかがか?と思う。
まずは自社の幹部学校として、「幸之助哲学」を徹底的に注入すべし、と。
これができてから、ふたたびグレード・アップすればいい。

リベラル・アーツの最高峰は、「哲学」なのである。

実は、ニュートンだって誰だって、あの頃の本人たちは哲学をやっていたと自覚していた。
「万有引力」すら、本人には哲学だった。
幸之助哲学は、単なる経営学や経営哲学ではない。

これがわからないから、事業の縮小しかしないのである。

さてそれで、年末の「ブラックフライデー・セール」真っ盛りである。
ここ最近は、「クリスマス・セール」といわないのが新しいらしい。
携帯やPCの充電器に、窒化ガリウム(GaN)を使った超小型で軽量の中華製品が、大型で重いメーカー純正品より人気になっている。

この技術で世界をリードしたのが「松下」さんで、完全に宇宙・軍事用の技術だったけど、すっかり外国に引き渡された。

幸之助哲学の喪失は、企業の話を超えて安全保障の脅威にもなっている。

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