「ラブホ」の市場参入

「日本文化」としてとらえれば、「ラブホ(ラブホテル)」という業態は、世界的にもかなり珍しい施設である。
それには、特異な「住宅事情」も遠因にあるけれど、「公娼制度」があった江戸時代の影響が根強く残っているのだ。
いわゆる、「悪所」として存在した「遊郭」(売春防止法による完全廃止は昭和33年3月をもって完遂)の「貸座敷」がなくなったことから、あらたな「風俗営業法(風営法)」が取って代わった。

そこで、「場所」を提供する業態としての「連れ込み旅館」には、「♨(温泉マーク)」が目印となったので、これを称するに「逆さクラゲ」と呼んだのである。
また、この手の客室には、「鏡」が多用され、室内から浴室が見える構造にも特徴があったのは、「淫靡」さの演出でもある。

一方で、その他すべての「ふつうの宿」には、「旅館業法」が適用されて、「風営法の宿」と一線を画すことになった。
こちらは「淫靡さ」を演出しては「ならない」のだ。

ちなみに、日本だった台湾には、世界で二箇所しかない「北投石(ラジウムを含む)」が露出することで有名な「北投(ぺいとう)温泉」があって、実質的に温泉だいすきな日本人が開発した温泉街で、こちらは「オリジナル用法」としての「温泉マーク」が健在なのである。
なので、その後の日本人にはちょっと気恥ずかしさがある。
なお、北投石のもう一カ所の露出は、重病湯治で有名な秋田県の玉川温泉である。

ところで、風営法の運用が年々厳しさをまして、もはや「一代限り」という条件から、オーナーの余命に依存することになった。
むろん、「新規の許可」はもはやおりないので、まったくの「絶滅危惧種」になっているけど、「危惧」されるのは。時間の問題という意味なので、絶滅が確定している。

そんなわけなので、風営法の宿については、いちど「見学」することも「観光」になる。
二度とない人生体験となるばかりか、「語り継ぐ」こともできるようになるはずだ。
しかし問題がひとつあって、営業許可の「寿命が尽きた」風営法の宿が、旅館業法へと免許の書換をして、事業としての延命をはかることがある。

建て替えや室内改修によって、淫靡さを打ち消せば、ふつうの宿に「なれる」のである。
だから、いまどき風営法の宿を見つけるのが困難なのだ。
なぜなら、これら変身した宿も、土地から移動するわけではないので、かつての「赤線地帯」にいまもあって、「新旧が混在」しているからである。

こんな事情があるので、いまや「ラブホ」といっても、じつはほとんどが「旅館業法」を根拠にしている営業なのだ。
すなわち、見た目からは想像できない「ふつうの宿」という実態があるのである。

さて、世の中は「少子」である。
すでに若者世代の人口は、団塊世代が若かったころの「三分の一」になっている。
そして、これがさらに「悪化」しているのは周知の通りだ。
また、住宅事情もずいぶんと改善された。

過疎化がすすむ地方においては、ラブホの廃墟化もすすんでいる。
そこで生き残りに、「販売政策」を転換しだしている。
それが、「おとな(アダルト)限定」ではあるけれど、ネットの予約サイトに顔を出すようになってきている。
また、ラブホを廃業して、家族向けに変身もしている「物件」もある。

かつてなら、「休憩」を何回転、くわえての「宿泊」販売で、1日の客室販売単価を稼ぐのがビジネス・モデルだったけど、客室清掃の人手不足も手伝って、「まともな値段」での「宿泊特化」でも、背に腹はかえられない。
「休憩」販売をスパッとあきらめる。
二兎を追う者は一兎をも得ず、になってきているのである。

では利用側の目線はどうか?
じつは、入口と出発時の気恥ずかしさをガマンすれば、客室内はいたって快適なのである。
まず、一室面積が広い。
「14㎡」が業界スタンダードになりつつある、ビジホ(ビジネスホテル)とは比べるべくもない。

また、ベッドが大きい。
たいがいが「キングサイズ」である。
そして、風呂場も広くてバスタブも大きく、これもたいがいが「ジャグジー」機能がふつうにある。
だから温泉である必要もなくて、アメニティの充実は高級ホテルも及ばない。

冷蔵庫には、冷えたジョッキとグラスがあって、電子レンジも完備している。
外で買ってきた食材を簡単調理できるし、飲食できる空間がある。
いまや、ビデオもオンデマンドにして「見放題」で音響もテレビだけではない。
カラオケだってできてしまう。

いいことずくめ、なのだ。

おそらく、コロナ前、外国人旅行客があふれていたとき、ビジホの予約がとれないばかりか変動価格による高額料金提示に驚いたひとたちが、「仕方なく」ラブホを予約して「体験してしまった」のだろう。
それに、ラブホ側も気づき始めていることは間違いない。

あたらしい「業界秩序」が生まれる前の「混沌」がはじまっている。

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