「産業の頂点」だというけれど

観光業は「第六次産業」だといったのは知の巨人、梅棹忠夫氏であった。

第一次産業+第二次産業+第三次産業=「第六次産業」だというのである。もちろん、足し算ではなくて、かけ算にしてもよい。
これで、あたかも「食物連鎖の頂点」に君臨するライオンのごとく、観光産業従事者の気分はすこぶるよくなったという。

しかし、梅棹氏の指摘は「そちら」方面ではなくて、むしろ、「叱咤激励」の方向だった。

ライオンは、その鬣は立派だが、雌ライオンの狩りの成果で生きているし、老いて群れから追い出されたり、若くして雌にふられた雄ライオンは「流浪の旅」に出るしかなく、別の群れを乗っ取ることに成功しなければ「死」が待っている、あんがい哀しい動物なのだ。

ましてや「万が一」他の群れの乗っ取りに成功したら、いまいる子ライオンは全部が乗っ取ったライオンによって始末される運命にある。
「強者(の遺伝子)」しか生き残れない、「自然の掟」に従って生死が決まるのである。

では、狩られる側の、たとえば、シマウマの側はどうかといえば、その気性の荒さから、人間が家畜にすることができない特徴がある。
なので、シマウマは、なにもライオンに食われるために生きているわけでもない。

おそらく、シマウマ側の生存にあたっての原理は、ライオンやらの肉食獣に食われる数を想定した個体数を維持するようになっているにちがいない。
これを、「調整」しているのが、地面に生える植物の量と水の量に依存する。

つまるところ、ライオンがどんなに人間によって「百獣の王」と、おだてられても、ライオンはシマウマの数も、植物や水の量をコントロールしているはずも、能力もない。
もちろん、ライオンたちが自分たちは百獣の王だと自覚しているはずもなく、そんなことをかんがえる知能を持ちあわせているとかんがえる方がどうかしている。

そうなると、まったくもって「ライオンは百獣の王だ」ということの意味が不明になるのである。
だから、「観光業が産業の頂点だ」ということの意味を、観光業界のひとたちはじっくりかんがえる必要がある。

なんでこんなことを書くかといえば、かんがえていない気がするからである。

すると、まるでサバンナで生きているライオンとちがいがない。
ただ、言葉を解するのがライオンとのちがいだから、なんだか気分がよくなるのである。
そうやって、話が戻って、梅棹氏が指摘した「叱咤激励」の方向にならないと永遠にループする。

なので、ここからは「叱咤激励」である。

第一に、観光産業のひとたちは、自分たちの産業が「サービス業だ」という致命的な勘違いをしている。
第六次産業の「式」には、第三次産業も含まれているのだ。
そもそも、産業分類での「第三次産業」のあやうさがあることもしらない。
人類が最も長く従事してきた、農林水産業を第一次産業として、産業革命以来の鉱工業を第二次産業とした。

第三次産業とは、「これら以外」という分類なのだ。
しかも、産業の頂点にあるのが観光業なので、ぜんぜん「次元がちがう」という意味なのである。

これは、第一次産業における知見、第二次産業における知見、その他の産業における知見、という、おそるべき「広さ」と「深さ」についての知見がないと、存在できないのが観光業という産業だという意味になるのである。
このおそるべき難易度を、観光業界のひとたちは理解しているのだろうか?

残念ながら、まったく認識されていないと思うのである。
ならば、やっぱり自分の立ち位置を理解しないで生きている、ライオンとのちがいがなくなるのである。

第一次産業における知見とはなにか?
第二次産業における知見とはなにか?
第三次産業における知見とはなにか?
産業の頂点として君臨する観光業の知見とはなにか?

こうして並べてみると、観光業から他の産業への知見を求めることは、果たして可能なのか?とかんがえさせられるのである。
むしろ、他産業が「成熟」して、観光業に成る、という順番ではないのか?
まさに、将棋でいう「成る」だ。

すると、いま、観光業を自認しているならば、淘汰の対象になることを意味する。
ライオンが外からやって来て、群れを乗っ取るかのように。
そして、以前からの遺伝子をすべて始末するようなことがおこなわれる可能性がある。

これは、既存産業従事者にとっては致命的な事態だが、利用客からすれば、あんがいと「歓迎」すべき事態なのである。

「業界再編」とは、既存の観光業界の中での嵐ではなくて、他産業からの参入という形態になるとおもう。
これが、もっとも「合理的」だ。
既存観光業の皆さんには「リスク管理」をいいたいけれど、世の中のリスク管理の中核に「確率」があることは絶対だ。
すなわち、「発生する確率」の議論なのである。

あえていえば、廃業のプロセスも「確率的」にかんがえておいた方がいい、ということなのである。

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