あたらしい「最高級実務電卓」

2015年に,ほぼ3万円という価格設定の「最高級電卓」が発売された.
メーカーによると「電卓も『嗜好品』に」ということで,じっさいにずいぶん売れているらしい.
だから,部外者が云々するはなしではないのだが,電卓好きとしてコメントしておく.

パソコンなら,エントリーモデルの新品やリース落ちの中古が買える値段で,「電卓」を買うひとはどんな人たちなのだろうかとおもってちょっと調べたら,公認会計士や税理士といった「士業」の人たちは当然として,あんがい高級車のディーラーさんなど,高単価な物品を販売する会社のひとたちが,お客様に「見せる」ために購入しているということがわかった.

わたしも,そういう意味で客前の電卓を買い換えるように指導したことがある.
レジ横に置いて,割り勘計算などをするのにつかう電卓が,数百円のものだったからである.
もちろん,この電卓自体の機能に「否」はないけれど,「卑」があったからだ.
計算結果がおなじでも,あまりにもみすぼらしいものを使っているところを観られれば,お客側もぞんざいな扱いを受けていると感じるかもしれない.そうならこれは「大損」につながってしまう.

ところが,なぜか日本製の電卓は,どれもこれも「ビジネス仕様」のデザインで,おしゃれ感がまるでない.
電卓といえば「いかにも電卓」というデザインに統一されているようだ.
そこで,外国製のちょっとしたデザインの電卓を推薦した.

すると,やはり見ている人はいるもので,お店がおしゃれだと感じてもらえた,と早速の反応があった.
たかだか千円程度で,お客様に「いい印象」を抱いてもらえるなら,安い買い物である.
日本の電卓メーカーのセンスの無さが,外国製の電卓を買わせたのだ.

そうしてかんがえると,表題の「最高級」が,作り手にとっての価値感だとおもえてしまう.
もちろん,使い手のつかい勝手についての評価は高いのだが,あくまでも「ふつうの電卓」としての範囲を超えていない.
「売れている」ということから,否定をするのではなく,べつの概念による「最高級」があたらしく生まれてもいいのではないかとおもうのだ.

たとえば,ビジネスの場面なら,決定的に「ふつうの電卓」に欠けている機能は「年利」のための「べき乗」と「べき乗根」がある.
上述の「最高級電卓」には,「√キー」があるが,これだけでは不満が残るから,関数電卓がもう一台欲しくなる.

電卓メーカーからすれば,ふつうの電卓と関数電卓が売れるからそれでよいかもしれないが,利用者は,ずっと前からこまっている.
これに,「統計機能」がつけば,おおよその実務では間に合うから,かばんに一台いれればじゅうぶんだ.

欲をいえば,モード切替で式の入力ができて,それが電源のオン・オフでも消えないことが望ましい.
わたしにとっては,以上の電卓があたらしい「最高級実務電卓」である.

おそらく,こんなアイデアはとっくにメーカーはかんがえただろう.
しかし,せっかく作っても「売れない」可能性がたかい.
それで,これまで作らないできたから「売っていない」のだ.

なぜ断定できるかというと,おおくのひとが電卓の使い方をしらないし,なによりも,「利率の計算」や「統計計算」の『便利さ』をしらないからである.
だから,たんに四則演算のなかで,えんえんと足し算をして,さいごに割り算をするとか,メモリーどうしで足し算や引き算をする「だけ」で満足している.

そもそも,「√キー」がどうしてあるのかしらないから,使い方もしらないので押したことがない.
せいぜい,「√2」や「√5」などと押して,「ひとよひとよにひとみごろ」とか,「ふじさんろくおーむなく」とかの確認をするくらいかもしれない.

ということは,「教育」が必要だということである.
電卓の利用者を教育して,電卓が便利だと,購入候補者にこころから感じてもらうことなしに,わたしがかんがえる「あたらしい『最高級実務電卓』」は売れない.

わが国の数学教育は,算数教育からして先進国で唯一授業に電卓を「つかわない」ことを守っていることは何度かこのブログでも書いたが,利率の概念がわからなくて社会人生活ができるのか?
むかし,横須賀にいくと「自衛官専門」と大書した融資会社の看板をよく見たが,自衛官の専門教育のなかに「利子」がなかったので,実質「サラ金」にずいぶん借りてこまった人がおおかったと聞く.

統計は中学校からおしえることにはなったけど,おそらく無機質で抽象的なつまらない授業がおこなわれているにちがいない.
日本で統計は「三十年ぶり」のカリキュラム復活だったから,先生たちが「わからない」のである.自分がわからないものを,生徒がわかるようにおしえることは,できっこない.

こんな状態だから,電卓メーカーだけに「教育」を期待しても,普及はきびしい.
ならば,企業内研修でやろう!やるしかない!
のだが,その企業経営者が,研修を削減すべき「コスト」だと認識するようになった.
もちろん,かれら自身も「あたらしい『最高級実務電卓』」を欲しいとおもわない知識しかない可能性がある.

だから,「あたらしい『最高級実務電卓』」の発売と売れ行きは,あんがい社会のバロメーターになるだろう.
そういうわけで,とうぶんこの国で「あたらしい『最高級実務電卓』」が発売されることはない.

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