そっちの技術の日産か?

神奈川県の県央にある厚木市と伊勢原市の境界に、日産テクニカルセンターがある。東名高速道路を東京から下って、厚木インターを通過し、新しくできた伊勢原ジャンクションの手前右手の山側にそびえる白い巨塔群がそれだ。すぐ近くには、先進技術開発センターもある。

わが国の自動車産業の歴史をいまさら語ってもせんないけれど、トヨタが豊田市にあるのか、トヨタがあるから豊田市なのかはいわないものの、「地元密着」の企業であることに変わりはなく、社業の拡大がそのまま「県」を超えて中京圏の経済を支えている。

対する日産は、プリンス自動車との合併「など」、あんがい通産省などに主導権を握られてきたからか、神奈川県に主な事業所があるのに神奈川県民があんまり「地元」を意識していない不思議がある。つい最近まで、本社が銀座にあって、横浜市がやっとこさ誘致して横浜駅の横に移転はしたけど。

ずいぶん前に物故した父が現役だったころ、いよいよ自家用車を購入するにあたって、神奈川県民なんだから日産車を買おう、と突然のようにいい出した。「インターネット」という言葉すらない時代だから、いろいろパンフレットを取り寄せてくわしく検討した結果、愛知県の自動車を買うことになったのは、とき既にして「欲しいクルマがない」というがっかりからの無力感が漂う中での決断だった。

「技術の日産」は、「人とクルマの未来をつくる」会社の相手ではなかったのだ。

自動車(メカ)にくわしいことを自負していた父は、パンフレットの写真よりもスペック表をみて比較検討をしていたから、それだけならば日産車に遜色はないどころか、トヨタ車を凌駕した。ところが、総合評価となると、スペックだけでは決められない。ようはファミリーカーとしての用途を考え出したら「完成度」がちがうのである。

このことを、消費者は知っている。

ゴーン氏が再建の旗手として呼ばれたときに、日産役員に「クルマ好き」が一人もいないといきなりボヤいてみせたのが印象的である。自身、テストコースに赴き、楽しそうに試験車両に乗り込んで運転してみせる場面は、「まさか」というほどリアルな「クルマ好き」ぶりだった。

自分が「こんなクルマに乗りたい」ではなくて、ただ「こんなクルマなら売れるだろう」になっている会社なら、それはやっぱり売れないのだと訴えていた。そんなゴーン氏に裏切られたとしても、ゴーン氏の「真実」はここにある。それが、たとえ「虚偽」であってもだ。

結局のところ、コマーシャルに「技術の日産」が復活して、やっぱり売れないクルマの量産メーカーに戻ってしまった。ゴーン氏がいないからではなくて、彼が指摘した「哲学の欠如」についての反省と、ないならつくる気概の欠如が元に戻らせたのだとしか考えられない。とかく、エリートを自称するひとたちは、愚かしい発想と行動をする。

これは、自分で考えることを実行するのがエリートなのに、他人が考えたことと混同してしまうことに原因がある。つまり、他人が敷設してくれたレールの上を走っているだけのものを、あたかもぜんぶ自分の功績だと思い込むから、はたとレールが途切れたとたんに転覆してしまうのだ。それなのに、転覆するまで気づかないで「自分は偉いのだ」と思っているひとたちがあんがいたくさんいることを示している。

『半沢直樹』の世界は、リアルではないけれど、このことを強調して描いている。

その原作者、池井戸潤氏の自動車会社を扱った小説『空飛ぶタイヤ』も、既にいくつもの映像作品化がされている。この作品は、三菱自動車の大型トラックの脱輪事故をきっかけにしたもので、「リコール隠し」という企業犯罪の顛末も描いたことで「社会派小説」と呼ばれている。

企業犯罪の「根」というものには、「企業文化=社風」がある。

そんな会社と日産が提携したのは、どんな意図があったのか?検査不正との兼ね合いもあるかもしれない。けれども、「三菱」というブランドの魅力もあったに違いない。ただ、わたしには、上述した「哲学の欠如」という社風の一致、すなわち、社運を左右する両社のエリート同士の悪い意味での気脈が通じたからではあるまいか?と疑わせるのである。

小田急「伊勢原駅」には、橋上駅の階段途中に伊勢原市観光協会の売店があって、ここには人気の名物「柿の種」が販売されている。「米菓のあられ」が柿の種の格好をしているからのネーミングになったのだけれど、あの大きさの「あられ」で、ぜんぜん柿の種とちがう形態でも「柿の種」と呼ぶことがある。

それが、「新型 カキノタネ」と銘打った、日産自動車の名車たちを型抜きした「カキノタネ」なのである。果たしてこの技術的根拠は、日産のデザイナーが23種類のカキノタネのフォルムとパッケージを担当しただけでなく、型抜きのための金型も、日産総合研究所の技術者が最新技術を駆使て作った、とある。まさに、日産テクニカルセンターの底力があっての「カキノタネ」なのである。

その見事な金型が、このカキノタネのパンフレットに堂々と載っている。

なるほどの「技術の日産」なのである。

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