チップとサービス料

サービス業,なかでも人的サービスを提供する宿泊業や飲食業などで,よくいわれる欧米とのちがいは,チップとサービス料だろう.

この議論には「業界のタブー」がふくまれている.
第一に,チップならもらった本人のものになるのが原則だろう.しかし,サービス料は,企業が「売り上げる」ので,本人のものではない.
第二に,チップは所得税の対象になっても把握が困難であるのに対し,サービス料は「売上」になるから,まず消費税の対象となる.だから,消費者は,サービス料と消費税を負担する.企業にとっては,利益の源泉でもあるから,法人税の対象になる.
第三に,チップの額はお客側が決めるが,サービス料は企業側が決める.よくいわれる「10%」という率は,とくだん根拠があるわけでもないから,強気の店は「20%」とかと任意である.
第四に,上記,第一と第二に関連して,サービス料を売り上げる企業は,本来,従業員に全額を引き渡そうとしても,これ以外でお客に「サービス」してしまっているから「原資」がない,という問題がある.

整理しよう.
企業にとっては,売上と利益の源泉の一部になっている.
従業員にとっては,賃金のなかに組みこまれているという企業の論理が適用されている.たまに得るチップは自分のものである.
お客にとっては,サービスが気に入ろうが気にそぐわなくても,自動徴収されるのは,不合理だろう.気に入れば,もっと負担してもよいとおもうだろうし,そうでなければ一円足りとも嫌なことがあるからだ.ただし,自動徴収は,面倒がない,という意味において便利であるが,消費税も負担している.
国にとっては,消費税と法人税になる.

こうしてみると,一番の実利を得ているのは国であることがわかる.二番は企業だろう.すると,三番は従業員で,もっともつらいのは選択の自由なく,支払うだけのお客ということになる.お客は,面倒ではあるがチップになれば,サービス料分の消費税は負担しなくてよい.

チップになると

まっさきに企業がこまる.一番の実利を得ている国に余裕があるのは,ほかにも税収があるからだ.いわゆる濡れ手に粟をすこしがまんすればよい.
企業は,サービス料がなくなると,とたんにいまのやり方では経営が行き詰まる可能性がある.
そこで,建前上も,サービス料分の賃金をカットしなければならないが,従業員側は複雑だろう.「安定収入」だったからだ.また,チップが得られる可能性がある接客部署と,そうではない部署間で利害が分裂することになる.
チップ制を堅持している欧米の労組が産別を基本とし,サービス料の日本側が企業内組合である理由がここにもある.

生産性の問題

こうしてみると,わが国サービス業の生産性が,先進国でビリという理由のひとつに,チップかサービス料かという問題が浮かびあがってくる.

「サービス料売上」を期待できない欧米のサービス業は,本業で利益を創出する方法をかんがえなくてはならない.裏返せば,「サービス料売上」というゲタをはいた日本のサービス業は,本業での利益創出努力を欧米企業にくらべてもしなくてよいという「甘い」環境にある.それが「おもてなし依存」というかたちで顕在化する.日本のサービス業で,世界的企業が見当たらない理由である.

チップを受け取るには,お客にわかりやすいサービスをしなければならないから,個々人が努力する.その結果が収入になれば,人材もあつまりやすいだろう.その意味で,日本以外のサービス業従事者は,個人事業主として独自にビジネスをしているのに似ている.日本のサービス業従事者は,賃金制度にくくられた企業依存型といえるだろう.

欧米のチップ制は,自由競争的であり,日本のサービス料は社会主義的である.

これが,生産性に影響していないはずはない.

日本の人的サービス業におけるイノベーションの第一歩は,もしかしたらサービス料からチップ制への転換なのではないか?

であれば,国はへんな補助金をやめて,みずからも税収減という痛みをともなう転換をうながすことで,ゲタをはかなくてもたえられるサービス企業にすることが合理的である.税収が減ってもへんな補助金もなくなれば,国民からすればチャラである.これでサービス業の筋肉がつけば,ムリクリのカジノも必要ないだろう.

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