マッチポンプの中国政策

国民と国家は別物だ、という論法がアメリカ・トランプ政権の対中戦略で打ち出された。
これには、「国民<国家<党」という図式を応用した、「分断」だと中国政府は反発している。

およそ全体主義体制においては、二重思考(「ダブル・シンキング」)が「ふつう」なので、一般的な倫理や道徳という概念は通用しない。
むしろ、一般的な倫理や道徳に反する、背徳や悪辣をもって「道徳的」というので、正反対のことが一般的になる。

ただし、これは、「国家<党」という両者のなかでの「常識」だから、被支配者としての国民にとっては、「仰せの通り」ということになるだけなので、積極的にこれを受け入れるというほどでもない。
ここに、「分断」の種がある。

すると「国家<党」のいう「反発」とは、国民の側に立てば、「積極的に受け入れられる」ということになる。
つまり、「国家<党」が「国民と分断させるな」というのも、「とっくに分断している」という意味だ。

これが、「二重思考」の解読方法である。

こうしたことを、なんだかんだいっても外国のことだと嗤ってはいけない。
ぜんぜん他人事ではないのである。

わが国の場合、「国家」と「党」がどうなっているのかをかんがえると、「官僚政府<政権与党」を装いながら、実際は、「官僚政府>政権与党」になっている。
「<」と「>」の記号の向きに注してほしい。

どういうことかといえば、中国共産党は「立派な」近代政党だけど、わが国の自民党はぜんぜん近代政党ではないからである。
近代政党には、政党内にシンクタンクがあるものなのに、自民党はあろうことか官僚にこの役目を負わせた。

あえて自民党といっているけど、わが国の政党で党内にシンクタンクがあるのは、やっぱり日本共産党だけである。
この意味だけをとれば、日本共産党は近代政党といえる。
他の野党は、全滅なのである。

だから、かつての民主党政権も砕け散ったのだ。

政策を官僚に、「立案してもらう」ことしかできなかったからである。
もちろん、この「政策」には、「法案作成」もふくまれる。
その法案は、内閣法制局が仕切っているのである。
もっとも重要な、「予算」は、当然だが財務省が仕切っている。

官僚を手足のように使った政治家は、過去に一人、田中角栄しかいなかった。
いまの政治家は、官僚に手足のように使われていて、できるのはパフォーマンスとしての「発言」だけになったから、「失言」がふえる。

角栄の天才は、各省庁のキャリア官僚の顔と名前、そして何よりも「入省年次」を記憶していたから、適材適所が実行できた。
これを、「角栄コンピュータ」と呼んだのだ。
官僚の弱点は昇格において、入省年次を超えられない、一点にあることをしっていた。

経済官僚のほとんどが法学部出身なので、本当はかなり経済音痴なのがわが国経済省庁の特徴となっている。
とくに顕著なのが、経済産業省である。
この役所は、日本経済の発展にほとんどどころか、歴史的にもぜんぜん役に立っていないのに、「我こそは」と意気込む悪い癖がある。

この癖をつけたのが、近衛内閣における岸信介商工大臣(商工省は後に通産省になる)だった。
近衛の悪辣は、阪急東宝グループをつくった自由主義者の小林一三を商工大臣にしながらも、満州で社会主義帝国をつくった岸を次官につけて、小林になにもさせなかったことである。

しかも、内閣を意味不明に放り出してみせたのは、小林を追放し、岸を商工大臣に据えるためだったのだから、たちが悪い。
ついでに、満州で岸を補佐して社会主義のための経済計画を立案していた満鉄調査部の流れから、後の経済企画庁ができている。

このあたりから、わが国のダブル・シンキングがはじまるのだ。

そして、いまの経産省は、中国から撤退する日本企業に補助金を出す政策をかかげ、1700社がこれにしたがっている。
ただし、中国に進出している日本企業は、およそ3万5000社にのぼるから、せいぜい全体の5%程度なのである。

しかも、このたびの新政権でも留任した自民党の幹事長は、「中国との経済関係の強化は世界潮流である」旨の発言もしているのである。
西側諸国のどこを見ても、世界潮流とはいえそうもないけれど、経産省の外郭である日本貿易振興会(JETRO)による、中国進出企業アンケートでは、9割以上が現状維持かさらなる事業拡大を試みる、というから、「国内的には」世界潮流ともいえる。

つまり、撤退させたいのか?拡大なのか?どっちなのか?
がはっきりしない。

税金をつかう補助金方式には限界があるし、かといって民間企業に命令もできない。
だけれども、一方で、現地に駐留する民間人は、そのまま「人質」にもなる。

最後は企業の経営判断なのである。
くれぐれも「サンクコスト」に注意したい。
過去の投資は、「あきらめるに値する」原価なのである。

これは、中国に投資した世界中の企業にいえる。

だから、雪崩をうって撤収パニックになることもあり得る。
他人の判断に依存してもせんないけれど、11月のスイスの国民投票と、もちろんアメリカ大統領選挙がエポックになるにちがいない。

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