世界戦略 I’m lovin’ it.

いい広告とは,販売を伸ばす広告である.
この基準が,「業界」のなかの目線によってゆがむことがある.
この「業界」とは,「広告業界」のことである.
つまり,クライアントの金で,クライアントの満足ではなく,自分たちの満足を追求してしまう現象をいう.

有名な広告,無名な広告,さまざまあるが,有名な会社,無名な会社のことではない.
有名な広告は,「話題性」があるから「有名」になる.
しかし,その「話題性」が,販売増につながるかどうかはわからないことがある.
広告業界のなかでの「CM大賞」は,「話題性」が重視されるから,販売増にどこまで貢献したかはわからない.
ところが,授章式にはクライアント企業のえらいひとが呼ばれて壇上にあがるから,それで企業も「よかった」になるようなしかけがある.だから,作った者勝ち,なのだ.
じっさいに,なにがヒットしなにがホームランになるかわからないのが世の中だ.

民放では,番組編成の谷間の企画切れなのかしらないが,「CM特番」を放送することがある.
どんなCMが過去にながされてきたかは,一種の文化を形成する.
だから,単なるノスタルジーではなく,時代の「資料」として興味深い.
どうしてこのようなつくりかたをしたのか?
という解説のみごとな欠如,ほんとうにまったくないのは残念だ.
「CM特番」は,じゅうぶんに教養番組になりえるのだが,「企画切れ」としか感じない.

もっとも,そんな「教養番組」を一度でもつくったら,つぎの「企画切れ」の穴埋め番組がなくなるから,「企画」されないのだろう.
「感嘆」役のタレントを入れ替えれば,なんどでも「CM特番」はつかいまわしができる.
それで,スポンサーがつくのだから,「おいしい」はなしになるはずだ.
「CMは文化だ」といいながら,しっかり「CM」自体を消費してしまうのだ.

学校英語教育界を震撼させたというCMに,「I’m lovin’ it.」があった.
これは,世界最大のハンバーガーチェーンが,世界戦略として打ち出したもので,かれらが進出しているすべての国で,一斉につかわれた.
だから,外国に旅行しても,かならず目に触れるようになっている.

こまったことに,このフレーズには,重大な問題がある.
「love」が「進行形」になっているのだ.
感情をあらわす「love」は,進行形にはできない,から,まじめな生徒ほど疑問をもつ.
そこで,学校の英語教師に質問したのだった.

どうして「進行形」なんですか?
どうやって「訳す」のですか?

ほとんどの英語教師は,「文法的に間違っているから,気にするな」とこたえたそうだ.
それでも,納得がいかないまじめな生徒は,予備校の英語講師に質問した.
だって,アメリカの会社でしょ?
世界中でおなじフレーズを流しているんでしょ?
アメリカやその他の国のひとたちは,これをどう「解釈」しているの?

ひとつの「解答」はつぎのとおり.
「love」が進行形になっているのは,CMならではの「つかみ」だろう.
だれだって「アレ?」とおもう.
それに,ことばは生きているから,新語はどんどんつくられる.
日本語だって,告白することを「こくる」なんてちょっと前には言わなかった.

進行形には「途中」の意味があるから,「loveの途中」.
深読みすれば,健康にわるいとか肥るとかいうけど,食べてみたらやっぱり好きになるかも,って意味にもとれる.

予備校の英語講師に質問したらスッキリした.
こうして,学校英語教育界の信用はズタズタになってしまった.
これが,ひとつの課目だけのはなしならいいのだが,おそらくそんなことはあるまい.

世界戦略の一言には,意外な破壊力があった.
それで,「loveの途中」をうたった会社は,紆余曲折あるものの,あいかわらず販売を伸ばしているから,CMとしては成功したといえるだろう.
世界で「話題性」と「販売増」という二兎をみごとに仕留めた事例だ.

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