企業博物館の価値

名古屋は「産業の街」といわれる.
日本というよりも「世界のトヨタ」があるから,だれにも文句はいわれない.
そのトヨタ発祥の地に,トヨタグループが集結してつくる「豊田産業記念館」がある.
さらに、ほぼ隣接してやはり発祥の地である則武に「ノリタケの森」がある.

臨海部には,JR東海の「鉄道リニア博物館」があって,真北の県立名古屋空港には,隣接して「航空博物館」もある.
世界最大のプラネタリウムでしられる名古屋市立科学館は,科学体験のための装置がならんでいて,子どもからおとなが楽しめるようになっている.

似たような科学施設は横浜にもあるが,名古屋は市立美術館とおなじ公園内にあるから,分散している横浜よりも便利さにおいていさぎよい.
こういうばあいの「集中」ということができるのはちゃんとした「計画」があるからで,「分散」には「迎合」の香りがするものだ.この点で,横浜市は落ちぶれている.

産業をないがしろにして,開港以来本社をおいていた企業をいじめて,大挙して東京に本社を移転されてから,きがつけば人口は巨大化したが,たんなる東京のベッドタウンになりさがったのが横浜市である.
それでも選挙では圧倒的に強かったのは,増大する市職員のおかげで,のちに社会党の党首になったが,全国では通用しなかった.

横浜が「おおいなる田舎」といわれるゆえんである.
すったもんだで,東京の銀座から「日産グローバル本社」を誘致して,ようやく上場企業が数社,横浜に本社をかまえるようになったのは,三菱重工横浜ドック跡地の「みなとみらい」再開発がきっかけであるから,移転に特典をあたえないときてはくれないふつうの街だとわかる.

上場企業を追い出したのだから,良くも悪くも市の「産業政策」は,中小企業むけになるから,港湾の運営を国土交通省に横取りされたのよりもずいぶん早く,中小企業庁の下請けになった.
それで,対策を立てればたてるほど産業は衰退し,役人が栄えるようになった.
JR桜木町駅前に建設中の超高層「新・市庁舎」を見上げれば.その栄耀栄華にため息しかでない.

そうかんがえると,じつに名古屋がうらやましくみえる.
豊田産業記念館も,そのとなりの「ノリタケの森」にも,創業者の「自主独立の精神」が展示物のテーマとして貫かれているという共通が確認できて,感動的である.

しかし,残念ながらどれもが「完璧」ということはないのが人間のやらかすことで,JR東海の「鉄道リニア博物館」には,微妙な影がおちている.
国鉄というお荷物が,JRになって「民営化」されたとはいうものの,国民資産で大儲けしているのが実態だから,国鉄清算事業にどれほどの貢献をしているのかの展示がない不満がある.

また,新幹線は「エコ」である,と胸を張るが,電気自動車や水素自動車とおなじで,まさか「有害な排気ガスを出さない」などという子どもだましの主張ではないと信じたい.
その証拠に,保守点検だけでもたいへんと詳細な自慢をしていて,これで「エコ」だとはとうていいえまい.
すると,この「エコ」とは,「エコノミー」のことかとおもうが,LCCなら余裕で外国にいける料金を徴収していて,それはないだろう.

新幹線は便利な乗り物にちがいないが,あんまり自慢の度がすぎて,胸がそりかえって後ろに倒れるようなマンガ状態がみられるのが残念である.
高い料金なのは,便利さの素直な代償であるといえてこその「正直」であろう.
それで儲けた分が,すっかりリニア投資になるといえば,もっとよい.

県立名古屋空港の「航空博物館」は,話題の「MRJ」開発拠点の横にある.
「YS11」以来の国産旅客機だから,期待もふくらんだものだが,いっこうに納品されない.
うわさによると,三菱重工の「根回し」が下手すぎて,もはや絶望的だという.
この「根回し」とは,援助交際相手の経産省のことで,その向こうには米国の許認可がある.

邪推をすれば,三菱の技術者が経産省の文系に説明して,これを米国の技術者ばかりの役人に説明しているのではないか?
まん中にいる,日本のえらいお役人が文系法学部だから,英語とはちがって日本語での技術の翻訳に手間取っているのではないかとうたがうのだ.

「YS11」(モックの展示公開日「横浜杉田で11日」というキャッチフレーズが機種名の由来)のときは,やはり通産省のお役人が中心になっていた.
「製造」までこぎ着けたが,大誤算が「販売」だった.
つくることにエネルギーをかけて,売ることをないがしろにしたら,世界で売れなかった.

今回は,「製造」にすらこぎ着けていないから,「予約販売」をしたけれど,すでに納期遅れをもって「キャンセル」が発生している.

まさか,MRJで天下の三菱重工が倒れるということはなかろうが,東芝とおなじで原発でも大損している.
しかし,なにも悪いことだけでなく,「経産省」と組むと潰される,が日本企業の常識になって,「自主独立の精神」を取りもどす契機となれば,それはそれで「よかった」になる.

企業博物館をめぐると以上のようなものがみえてくるから,たいへん有意義である.

やっぱり名古屋はうらやましい.

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