富士山の水道水

富士山には、「川」がない。
自ら噴出させた、「溶岩」や「火山灰」で覆っているので、雨が降っても雪融け水でも、「地下水」になってしまうからだ。
イメージとしとはスポンジのような山なのである。

「貯水量」はというと、およそ「琵琶湖ほど」という研究がある。

なので、重力でスポンジの水が湧き出るように、富士山の山腹から涌き出る水を水源として、この山の周辺都市の「水道」になっている。
もちろん、瓶詰めすれば「ミネラルウォーター」として販売できるので、山梨県と静岡県は、あわせて全国シェアの半分を超える「二大産地」となっている。

都道府県別で水道料金をランキングにすると、最安は神奈川県になるけれども、市町村別にすると様相が変わる。
トップ10に、静岡県(長泉町、小山町)と山梨県(忍野村、富士河口湖町)それぞれ2町村がランクインしているけれど、神奈川県の市町村はひとつもない。

統計における「平均」の妙である。

富士河口湖町と忍野村との間には、富士吉田市があって、「吉田のうどん」が名物とされている。
「腰がある」というよりも、かなり「堅い」うどんだけれども、「水のよさ」あっての名物にちがいない。

忍野村には有名な「忍野八海」がある。
富士山の伏流水の湧水池が並んでいる。
この地の奥と山中湖を水源にする「桂川」は、富士吉田市の溶岩流脇を下って、大月市で大きく曲がって相模湖に向かう。

山中湖の反対側、道志山塊を水源にする道志川も、山を夾んで桂川と並行しながら相模湖に向かう。
道志村の村域の8割が、横浜市水道局の水源管理山林として、横浜市が所有している。

山中湖から篭坂峠を越えれば、御殿場市で、途中、小山町を横切る。
御殿場から国道246号線を下って裾野市の隣が長泉町。
それから、うなぎと柿田川湧水群で有名な三島に至る。
西となりの沼津の先は富士市で、豊富な水をつかった製紙業が栄えた。

富士市から北上すれば、焼きそばで有名な富士宮市。
さらに北上すれば、本栖湖で山梨県に戻る。

これらの町の水道は、ぜんぶ富士山の水なのだ。

ときに、「静岡ラーメン」というローカルなジャンルがあるけれど、「水」に注目すると納得できる。
麺をこねる水と、スープも水から作るものだ。

地元のひとたちの「当たり前」は、水道による。
だから、水道料金が安いことも「当たり前」になっている。
すると、いつの間にか「当たり前」は意識しないレベルでの「当たり前」になるので、その「恩恵」も意識しないで生活している。

この人たちが、「当たり前の恩恵」に気づくのは、富士山から離れた地域に移動したときに気がつくのだ。
それは、「旅行」レベルになったとき、なのである。
案外と、生活圏としてみれば、富士山の周辺にまとわりついているからだ。

ところで、富士山の水とは、「軟水」なのである。
「軟水」と「硬水」のちがいは、ミネラル成分(主にカルシウムとマグネシウム)の含有量のことで、「軟水」にはミネラル成分がほとんどない。
逆に、ヨーロッパの水の多くは「硬水」だ。

有名な銘柄の「ミネラルウォーター」を、テフロン加工などがされた内側が黒い鍋に入れて煮立てると、鍋の周辺に白い物質がこびりつく。
これが、「ミネラル」だ。

日本の水は、ほとんどが「軟水」なので、「硬水」のミネラルウォーターだけを飲み続けると、日本人はお腹をこわしたり、「石」ができる。
ところが、肉食の人たちには、「硬水」が料理を美味しくさせる秘訣になっている。

典型的なのは、「煮込み料理」で、肉に含まれる各種ミネラルが、硬水のミネラルウォーターで煮込むことで、軟水よりも多く「しみ出る」のである。
これは、イタリア料理でも同じ。
石灰質の土地から涌き出る水には、たっぷり「カルシウム」が入っている。

パスタを茹でるときにも、「硬水」は具合がいい。
日本では、たっぷりの「塩(ナトリウムと塩素というミネラル)」を鍋に入れるのは、軟水を硬水のようにさせるためでもある。

そんなわけで、富士山の水は、フランス料理には向かない。
蕎麦やうどん、ラーメンが「名物」になるのは、「軟水」のおいしさが原因なのである。
もちろん、「うなぎ」もだ。

日本食が富士山には向いているとは、痛快だ。
忍野村には豆腐屋が2軒隣り合わせているけれど、近くに行けば必ず購入する、と地元人に語ったら不思議そうな顔をした。
「そんなに特別ですかね?」

ふだんから飲んでいる水と、豆腐を作るときの水が「同じ」だから、特段美味いとは感じないそうである。
ほとんど「水」でできている豆腐は、実は「水を食べている」ようなものだから、水の味で豆腐の味もきまる。

そこで、どこかへ旅行して豆腐を食べたら違いが分かると思う、と返したら、はたと気がついたようであった。

うらやましいほどの日常を富士山は提供してくれている。
それが「ふつう」すぎて、商売人も気がつかない。
「日常」とは、そんなものなのである。

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