従業員に本当のことがいえない

業績がふるわない企業ほど、従業員に業績発表をしない。
けれど従業員も、興味がない、から気にしない。
なぜ従業員が興味をうしなったのか?
いわれたことだけをやればいい会社だから、余計なことに興味を失っている。

会社の業績が従業員にとって「余計なこと」になったら、将来の業績の回復も見込めない。
もし、業績が回復しそうだとなっても、これらの従業員はけっして喜ばない。
「ああ、仕事がふえる」としかかんがえないからである。

もちろん、従業員に業績発表をしない会社なら、資本関係がない取引先にもおしえない。
それどころか、「秘密」あつかいにしていることだろう。

しかし、世の中のおカネをむかし「御足(おあし)」とよんだように、足がはえて勝手に歩きまわるような感覚があった。
経済は、連動しているのだから、「御足」といういいかたは、経済を適確にとらえた言葉遣いである。

だから、取引先は、入金だけでなく、自社が納入している物品の量と質をみれば、相手先がどんな状況かは把握できる。

これは、政府統計という巨大なデータでもおなじで、信用できない巨大な隣国政府の統計だって、「輸入」の量と金額はごまかせないのとおなじである。
輸出した元の国々の情報から、全体像がうかびあがるからだ。

そんなわけで、二流以下の経営者は、取引先からながれる正確な情報に、自社から「秘密」が漏れていると疑い、とうぜんに嫌疑を従業員に向ける。
こうして、人間関係まで崩れれば、組織の崩壊は目前となる。

業績の良し悪しにかかわらず、ちゃんとした経営者は業績発表に躊躇はない。
業績発表は、ある意味経営者の通信簿だというが、たとえオール1でも、恥を忍んで発表し、次期以降のバネとする。

納入業者もつかう従業員出入り口に、毎月の業績と将来予測を張り出すホテルがあった。
そこでは、パートさんも時間中に招集して、業績の「紙のみかた」をレクチャーし、どうしたらよくなるのかアイデアを募集すると公表もした。

どんなアイデアでも出したひとには金一封、そのアイデアが採用されたひとには表彰制度をもうけた。
それで、まずは「他人ごと」を排除したのだ。

すると、このはなしが取引先にも「漏れ」て、取引先からもアイデアがでてきた。
シーズン前に、地元名物の一次産品を集めたフェアをやるという「おふれ」をだして、あたらしい取引先まであらわれた。

さて、そうかんがえると、よくいう「情報の共有化」が、どれほど実務に役立つかの両極のはなしが上述のとおりである。
しかし、世の中には、まん中の事例もあるのだ。

現在の業績がそこそこ好調でも、「情報をださない」という爆弾をかかえている事がある。

なかでもそれが、就業規則や賞罰規定にかかわることだと、事あるばあいに示しがつかなくなることは容易に想像ができる。
にもかかわらず、これらの情報を従業員に提供しないのには、「中小企業」の甘えの構造がみてとれる。

従業員をもって一家を成す、という「家族主義」は、日本人のこころの琴線にふれる感涙主義でもあるのだが、うらをかえせば「なぁなぁ」なのである。

政治の世界なら、桂園時代という一時代がはるかむかしにあったものだ。
桂太郎と西園寺公望が、交互に総理大臣をつとめた時代をいう。
桂は陸軍出身で大将にのぼりつめたひとだったが、「ニコポン」というあだ名があった。

ニコッと笑って相手の肩をポンとたたく。
「頼んだよ、よろしく」という合図であって、けっして言葉にはしない。
それで、ことがなった時代だけど、いまでもあんがいかわらない。
言ってないから「忖度」ということになるからだ。

いわゆる「家長」としての社長が、わるいようにしない、と家族である従業員に約束すれば、それでよしとしたからで、あからさまに文句をいうなら、文句をいうほうが悪者あつかいされたのだ。

しかし、いまは、典型的な「家長」としてパターナリズムの権化だった、医師までもが、患者から「セカンドオピニオン」を請求されたらことわれないし、治療方針についてのわかりやすい説明と患者の同意である「インフォームドコンセント」が普及してしまった。

ならば、会社だって役所だって、ききたいことは確認する、というあたりまえがあたりまえになった。
それで、先回りして「説明責任」をはたすほうへ行くひとと、何もなかったかのようにするひととにわかれたのだ。

それで、後者たちは、ついに従業員から質問されることをこころのなかで「痛い」と感じるようになった。
そんなわけで、こわくて本当のことがいえないのである。

これは、父権の喪失ということとおなじで、「家長」の立場放棄なのである。

業績のよい会社ほど、傷が深くなる。

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