手法さえわかれば簡単だ

世の中にはかぞえきれないほどたくさんの「ノウハウ本」がある.
しかも,だいたいどれもそこそこ売れている,のだという.
なるほど,本が売れない時代の書店に,ノウハウ本が山積みの理由がここにある.
まったく不思議なはなしである.中身が濃い本ほど売れないというのだから.

「ノウハウ本」を読んで,ノウハウを習得したひとをわたしはみたことがない.
すると,「本なんか読んでも役に立たない」と豪語して,いっさい読書をしないという経営者もいるから,世の中には極端があふれている.

「ノウハウ本」を購入するひとと,読書を基本的にしないというひとは両極端のようだがそうではない.
共通点に,「手法さえわかれば簡単だ」というお手軽・お気軽な「思想」があるからだ.
90年代の「軽簿短小」という産業トレンドが,そのまま人間の「軽薄さ」に転換されたようだ.

一方は,「手法だけ」をもとめて「ノウハウ本」を読みふけり,手法が自分にはあわないとして,また別の本をもとめるタイプだ.
もう一方は,肝心の手法など,本に書いてあるはずがないからと,本を読まず,うわさやトレンドに飛びつくタイプなのだ.
だから、両者のもうひとつの共通点は,テレビの情報,すなわちマスコミの影響をうけるようになることだ.

これは,ホテル業界では顕著で,とくに婚礼部門が深く冒されている.
新婦が必携の「婚礼雑誌」に,利用者と提供者双方が振り回されてひさしい.
わたしもかつて,紹介者をつうじたカップルで,新婦から直接雑誌をみせられて,このページの写真のように結婚披露宴をやりたいといわれたことがある.

当時の数字はわすれたが,さいきんのこの雑誌の発行部数は約30万の月刊誌である.
結婚する組数はだいたい年間で60万組だから,単純に新婦の半数はみている可能性がある.式までの準備期間をかんがえると,ひとりで何号も読破するにちがいない.
だからこそ,とてつもない影響をおよぼす雑誌だと位置づけられているのだが,裏をかえせば,式が近い招待客候補の友人もみている可能性がある.

それで,30万人がみた写真どおりでほんとうにいいのですか?と聞いたら,キョトンとしたひとがいた.
結果的に,オリジナリティを一緒に追求するという意味ではあたりまえの「手作り婚礼」になった.

ところが,いまは,「お客様は『神様です』」という美辞麗句にさからえずに,お客様のいうとおりの実現こそがサービスというかんがえ方になっているようだ.
「正解」をだれもしらないが,「正解に近づける」という手法すらわすれてしまったのかのごとくである.

ここに経験豊富なプロが介在する価値があったはずなのだが,本人希望の雑誌のとおりに再現すればクレームはこない.
これを20年もやっていたら,とうとう「経験豊富なプロ」が途絶えて,たんなる受付係になってしまったから,単価がたかい社員でやることもなく外注化がすすんでしまった.

こうして,気がついてみれば,会場と料理だけが「ホテルの商品」でしかないのだが,商品名はホテルになるから,顧客が買っているはずの「◯◯ホテルでの婚礼」と,ホテルが売っている商品がみごとに解離してしまった.
それに,気がついたひとたちが,また例の雑誌情報であらたなトレンドに向かうから,ホテルはいつも後追いというモデルができたのだ.

それでは,成功したモデルの手法を真似ればよい,と「手法さえわかれば簡単だ」というひとたちはかんがえる.
それで,婚礼専門の外部の知恵を買ってくれば,あとは自動的にうまくいく,はずである.
ところが,世の中そんなに甘くできてはいない.

これは、政府の未来戦略がかならず失敗する構造とおなじである.
いまうまくいっている知見からしか予想ができないからだ.
婚礼雑誌が紹介して,いつしかトレンドになるやり方は,かならず「手作り婚礼」という挑戦者がいたものだ.

これは,イノベーションのことである.

当然,リスクは本人たちが背負ったので,企画倒れしてしまったアイデアもたくさんあっただろう.しかし,だからといって,新婚のふたりが不幸になるのかはまったく別のはなしである.
「リスクは避けるモノ」を追求する組織が,どんなに優秀な識者を呼んできても,イノベーションのたまごも生まれない.

残念だが,信念を持って,自分で手法をかんがえつくまでやらないと,けっして自分のモノにはならないのである.
いいかえれば,自分がノウハウ本を書けるようになることなのだ.
果たして,そうなったとき「手法さえわかれば簡単だ」といえるだろうか?

とんでもない.
そのレベルにまで達したら,こんどはその手法をさらに磨いて,進化させなければならないという信念がわいてくるだろう.
それを誰がやるのか?

「手法さえわかれば簡単だ」という思想では,繁栄は永遠にやってこない.

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