採算がわからないけど投資してきた

「採算」というのはどうやったらわかるものなのか?
ある商品を一個売ったら,いくら儲かるのか?がわかれば,こんなに簡単なはなしはない.
ところが,ほんとうにわかるものなのか?
とあらためられると,とたんに不安になったりする.

究極的には,「データ」を活用しないとわからない.
データの「活用」には,データの「収集」が必要で,なにが集めるべきデータなのかを決めることをしなければならない.

ところが,自社の範囲をこえて,他社のデータも必要なことがある.
たとえば,伝統的なデパートが仕入れにつかっている商習慣に「消化仕入れ」がある.
これは,納入者の商品がデパートに納品されると,所有権が一時的にデパートに移転して,デパートにきたお客が購入すると,その分の売上金を納入者の指定口座に振り込むことで決済するという仕組みである.

所有権が移転してしまうから,デパート内部でどういう記録を残すのかに運命がゆだねられる.
納入者が納入する商品が一種類しかなければまだしも,実務では複数の種類があたりまえだろうから,何が何個売れたのか?という基本情報すら納入者にはわからない.
全部がまとめて振り込まれるわけだから,デパートさんを信じるしかない.

ところが,納入者にとっては,入金があったからそれでよし,になるはずがない.
何が何個売れたのかがわからなければ,在庫がどのくらいかもわからない.
仕方がないから,だいたいこのくらいのはずだと見当をつけて,また納品する.
これが延々とくり返される.所有権が動くから,文句もいえない.

小売業の覇者だったデパートの凋落はいちじるしいが,まともな業者なら取り引きしたくないのが本音だろうから,多様化する消費者の選択から外れてしまったのは,こうした一方的な体制の維持に原因がもとめられる説もあってよかろう.ネットで売れるトレンド商品を扱う業者が,わざわざデパートに納品する理由がないから,消費者には,デパートに行っても欲しいものがない,になるのだ.

以上のような取り引きがあるから,売上=在庫=現金,という黄金律は,他社の都合でかんたんに破られる.
自社の管理体制を強化したところで,まったくの筋違いになるからだ.

では,自己完結型のばあいならどうか?
自社内での取り引きがあるような企業だと,こちらも意識して手間をかけないとわからなくなった.決算と納税事務を主とする経理部は,その手間をムダだとしていやがるからだ.

しかし,時代はデジタルだから,いまどき社内伝票が電子決済をともなわない企業以外は,かなりの確度で把握可能になったろう.
すると,いまどき社内伝票が電子決済でない企業があやしくなる.

企業情報の開示義務が,会社法と企業会計原則によってあらぬ方向へいっている.
「規制当局」は,株主利益のため,という大義名分を掲げているが,開示のためのコストがかさむ.そのコストは,株主負担であることは言うまでもない.
それで,上場を辞退する企業がでてくるから,なにごとも中庸が大切なのだ.

だったら,株主から委嘱される経営者には,「経営会計を活用しなければならない」という一文によって規制されたほうが,よほどの利益貢献になる.

しかし,突き詰めると,この問題は,経営者も,従業員も,規制当局の役人も,はたまた政治家も,この国には,資本主義の根本原則がわかっていないひとばかりではないかと思えてしまうのだ.

そもそも,資本は誰のものか?という問いに,株主のもの,とちゃんと全員が即答できるのだろうか?
「だから資本主義は問題なのだ」という,トンチンカンな回答は,もちろん問いに対するこたえになっていないから,論外なのだが,平気でこのようなことを言うひとがエライひとほどおおい.

アメリカンフットボールで,こうした時代を象徴するような事件があった.
問題の核心は,監督が危険なラフプレーを命じたのか命じなかったのか?である.
状況は灰色だが,もしも「黒」なら,まさに「採算」がわからないのに投資してしまった,ということだ.
企業に置き換えれば,違法な残業をさせてなお,残業代を支払わないのは,社長が命じたのか命じなかったのか?になる.

じっさいに被害者側が,警察に訴えたから,捜査,という段階になった.
こちらのほうは,前監督がすでに「二分間憎悪」の対象になったから,どんな事実がでてこようと,もはやより残酷な制裁から逃れようがないだろう.国民は他人の不幸を望んでいる.
くわえて,大学のトップも間もなく「二分間憎悪」の対象になるはずだが,大手広告代理店はどう動くのか?に興味がうつる.わが国最大規模の大学がもつ,広告予算の破壊力はいかほどであろうか?マスコミの健全性の試金石にもなるだろう.

これを企業に置き換えれば,監督官庁である労基署がうごくはなしだ.そこで,問題になるのは,もし労基署が「黒」としたばあい,株主は社長解任をふくめた処置をしないのはどういうことか?になるはずだが,この視点でマスコミは報道しないばかりか,「ブラック」だのなんだのと言ってお茶を濁すばかりだ.立派な経済犯罪なのにである.

まさか,残業代は社長のポケットマネーから支払われるものだとでもおもっているのか?
企業のお金は株主のもの.それを経営者が「運用」しているだけなのである.

これらの事例からもわかるように,この国の組織は,だれのものかがわからなくなって,責任者が私物化できるようになっているという特徴がある.
長期の「占有」が「所有」への錯覚を誘導するのは,日本人のDNAに組みこまれているのだろう.
それで,採算がわからないけど投資することもできたのだ.

デジタルデータの時代には,そうはいかない.

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