旅館の売店

「買いたい物がない」,といわれて世の中から退場を余儀なくされたのは,かつての流通革命の王者ダイエーだった.まったく買いたい物がない状態でも,なぜかいまでも存在しているのが,旅館の売店である.

商品の半分は委託販売品

デパートの衰退は,インターネットの発達によるEC(eコマース:ネット通販)の普及が原因といわれている.たしかに,これは決定打になるだろう.デパート(百貨店)というのは,中央集権的な商売だった.物がない時代,デパートという物理的なビル内の床に用意した数々の商品が,「よいもの」のほとんどすべてだった.だから,バイヤーの目利きがデパートのみえない商品だった.

豊かになるというのは,物がふえてくる,ということだから,床面積という物理的制約があるデパートには商品があふれかえるようになる.フォローしきれないものは,専門店にあった.しかし,物はそれでも増えつづけるから,コンピュータがない時代,手書きの伝票での商品管理は限界に達したのではないか.そこで,かんがえついたのが,「床面積を売る」という方法だった.

消費者には,デパートの店員か,床面積を買った側の店員かの区別がつかない.これで当面は,デパートはデパートでいることができた.

デパート全盛時代の旅館は,大型化して,お客をいかに自家から外にださないか,という囲い込み作戦が主流だった.その遺産が「売店」である.

もちろん,いまでも,旅館経営者は流通業が主体ではないとおもっている.サービス業とか接客業と定義しているにちがいない.だから,売店は,その延長での営業だという認識だし,どこにでも売っている商品揃えも,囲い込み作戦がベースだから,なんの疑問もないだろう.駅前の土産物屋にもあるけれど,どうせ買うならどうぞ当館でご購入くださいということだ.

ところが,物がない時代からの変化はデパートとおなじにやってきた.品揃えはふえるばかりだが,商品管理手法が古典的なままなので,「日持ちする物」が主体となる.そうやっているうちに,「リスクは避けるモノ」という刷りこみがはいって,リスクのある直接仕入れを避け,委託販売品が半分をこえた.

商品管理をしなくてよいという甘え

委託販売品とは,富山の置き薬のようなもので,売れた分だけ手数料を得られるしくみだ.定期的にやってくる「会社のひと」が,商品数をチェックして,手数料の計算までしてくれる.そして,売れた分を補充してくれるのだ.つまり,在庫管理と売上管理をしてくれるから,旅館側がやることは「店番」になる.

しかし,よくかんがえると,自社で直接仕入れの商品もある.こちらは,売り上げ管理も在庫管理も自分でやらなければならない.それで,売店の係(たいていはフロント係が兼務する)は,商品の「半分」である直接仕入れ分だけをチェックしている.つまり,委託販売品は「丸投げ」なのだ.おどろいたことに,委託販売品は「万引き」されても,自社には関係ない,という認識の旅館があったことだ.

委託販売の手数料計算は,まず「売上高」を確定する.なにが何個いくらで売れた,という計算だ.それから掛け率をかけて算出する.「売れた分」とは,商品の定数からなくなった分のことである.富山の置き薬とおなじだ.だから、万引きされた分も売れた分になる.ある旅館はここだけを注視して,関係ないと豪語した.万引きされようが,手数料がはいってくることだけが頭にある.しかし,いったん売上高の金額を引き渡さなくてならない.万引きされた分の売上高は,旅館が負担しているのだ.そこから,手数料がもらえるから,被害がすこしだけ減っただけだ.こんなことにも気がつかないのは,かなりの強欲発想だ.お客様の顔が一万円札にみえる精神病理だろう.

POSも導入していない

なんのことはない.売店で販売している商品管理は,全品,ちゃんと管理しなければならない.あたりまえのはなしなのだ.しかし,上述のような旅館は意外とおおく存在する.こうした宿ほど,売店の会計はフロントだったり,売店内でも「レジスター」のままだったりする.

直接仕入れと委託品を分けてレジスターを打つこともしないなら,どんぶり勘定のどんぶりにも失礼だ.ザルでもない.ザルの輪っかである.すくっているつもり,ほとんど宴会芸状態だ.

POS(販売時点管理)ができるレジスターを「POSレジ」という.日本では,40年ほどの歴史がある.最大貢献は,コンビニであることは誰でもしっている.あえていえば,コンビニの歴史はPOSレジの歴史なのだ.この誰でもしっているPOSレジを,いまだに導入しない旅館の売店は,それを観ただけで(経営の)「程度」がわかってしまう.

こんな旅館ほど,人手不足にさいなまれている.本業ではないと認識している程度の売店事業で,手作業による在庫管理をするしかなく,手作業による売り上げ管理をしているのだ.いったい,この手作業をするひとは,何時間かけているのか?そのひとの年収から換算すると,気絶しそうになるだろう.人件費が問題なのではない.ムダな仕事にかける「時間数」が,かくれた人手不足の原因である.

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