昔の音韻復元の威力

「比較言語学」の成果のことである。
これまで、「文字情報」として「古典」を見ていたものが、「音韻」として耳からの情報になって再現されて、それが一般人のもとにもネットでわかる時代がきている。

とりあえず、「minerva scientia」さんが、十返舎一九の『東海道中膝栗毛』(1802年~1814年)の会話部分を「音読」している。
当時の「江戸庶民」の会話が、見事に再現されているのだ。

これをまた、専門家として、「はちあ Hachia」さんが取り上げて、どうして当時の発音がわかるのか?について、言語学的に解説してくれているから、より深くしることができる。

視聴者からの多くのコメントに、「聞いたことがある」、「懐かしい」という書き込みがあるのは、たかが「二か三、多くて四世代前」のひとが実際に話していた「音」の記憶である。

幸か不幸か、こうした「記憶」があるのは、もう還暦近くの世代以上でないといけなくなった。
すなわち、「高度経済成長の最中」が、絶滅の最後にあたると考えられる。
この時点で子供なら、祖父母は明治中期の生まれとなるはずだ。

すると、この時点での子供の親にとっての祖父母は、明治初期の生まれになって、幕末以前の生活を引き摺っていたと容易に想像がつく。
「激動の時代」ではあるけれど、電話もテレビもインターネットもない時代の激動は、いまとはぜんぜん意味がちがう。

少なくとも、こうした片鱗は「現代物」の映画に記録されている。

小津安二郎を代表に、数々の「名作」にある登場人物たちの会話に、ふつうのひとたちの「話し言葉」がそのまま残されている。
映画だから、その会話が、「所作」とともに記録されていて、現代生活の「退化」、「荒廃」がわかるのである。

ついこの間まで言われていた、「はしたない」という注意喚起の言い方だって、すっかりなくなった。
それこそ、「所作」と「言語」が一致していたことの証拠であった。

これらのことをよく考えれば、「滑落」というイメージが湧いてくる。
これを「物理運動」とすると、高いところから低いところへと「墜ちていく」という意味なので、対象が物体ではなくて「文化」であっても、通じるところが注目点になる。

つまり、「高い文化」から墜ちて、「低い文化」になった、ということだ。

すると、幕末から明治初期にわが国を訪れた、「白人」が書き残した数々の「日本絶賛・礼賛」の文章とは、「欧米」という低い文化から見たわが国の高い文化を言っていることがわかる。

ところが、「科学」と「技術」で、だいぶ「遅れ」をとっているということ「だけ」で、わが国の文化全てが「低い文化」だと思いこんだことが、160年の経過と「努力」によって、自ら進んでほんとうに「低い文化」におとしめたのであった。

   

上左は、トロイの遺跡を発見する前のシュリーマンが、幕末の日本を訪れたことを書いていて、「我々(ヨーロッパ人)の知らない文明国」と言っている。
中の上下巻は、英国夫人にして旅行家のイザベラ・バードの旅行記で、右は大森貝塚を発見した米国人モース博士の日本滞在記である。

これらに共通するモチーフは、物質的な話ではない、「日本文化の高さ」なのである。

しかし、我々は努力して、物質的な「豊かさ」を追及するあまり、「拝金主義」という欧米文明の野蛮さを「先進的」と思いこんでしまった。
それでもって、「自己破壊」を続けていたら、とうとう「自分が何者なのか?」が分からなくなってしまったのである。

これぞ、開国以来一貫した、日本人の精神病理となった。

さては時間を巻き戻すことは不可能なので、いかなる手法でこの精神病理を克服するのか?という問題が、将来の日本人の「幸福」あるいは「不幸」を決定的に決めてしまうことになる、と理解できる。

江戸言葉に話を戻すと、幕藩体制という「分散型体制」で、「地方」も独立した国だったから、「お国言葉」という文化遺産もある。
すでに、小学生をして、「お国言葉」の理解が困難になっているから、自分が「遣い手」になるのは、最後のチャンス状態になっている。

しかも、現代の10代は、ほとんどテレビも観ない、ということなので、いまさら地方局は、お国言葉での放送をせよと命じたところで効果は薄い。
ならば、都道府県につくった国立大学の入試における「国語」には、「お国言葉」で出題するようにしたらいかがかとも思うのである。

人間は言葉によって制御される動物だから、「初めに言葉ありき」は正しい。

しかして、バベルの塔建設で神の怒りを買って、言語を乱されたという人類にあって、日本語だけが世界で別系統という不思議もあれば、古代シュメール語との共通をいう説もある。

日本文明発祥の不思議は尽きないけれど、日本文明が尽きようとしている。

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