武道の発想

よくいわれるわが国の数ある武道のなかでも、国際的に人気を二分するのが柔道と合気道だろう。
もちろん、このほかに、実戦むきの古武道もあって、その道のプロに対しての教練がおこなわれているものがある。

柔道は、むかし柔術といったものが、明治期に嘉納治五郎によって「柔道」になった。いわゆる「講道館柔道」である。
合気道は、大正から昭和にかけて植芝盛平が創始したものなので、柔道より遅いが、どちらも伝統武道を下敷きにした、近代の武道であることに特徴がある。

近代オリンピックの競技に採用されるなど、柔道の普及はもはや地球規模である。
つまり、「勝負」が決まる「競技」だからでもある。
その意味で、オリンピックのメダルに関して、日本ではもっとも強く要望されている種目になっている。

一方で、合気道には試合がない。つまり、勝負という概念がない。
勝ち負けがない武道とは、どういうかんがえなのか?
そこに、この武道の一大特徴があって、相手の力を利用して、さらに、相手を傷つけずに制圧するための、「じぶんの身体の動き」を訓練するのである。

柔道にも相手の力を利用する「技」はあるが、通常は「逆手」が主体である。
「逆手」とは、相手と自分が力でぶつかって、これをひねり倒すようなイメージだ。

合気道は、「順手」の技が主体で、人間の身体の構造におけるふつうの動きを、タイミングと部位、それに角度の制御で加速化し、相手の身体が宙を舞うような行動しかできないようにする技のイメージだ。

すると、柔道が磁石でいうおなじ極どうしの反発力を利用する感じがあって、合気道はちがう極がひっつきあう力を利用する感じがする。
ひっつきそうなところで、体をかわすから、相手はもう自分の身体の制御をうしなうのである。

合気道の達人の技をみる者をして、「うさんくさい」と思わせるのは、こんなに簡単(そう)に、ひとが倒れるものか、と。
昭和の達人、塩田剛三は、身長146cm、体重46kgという小柄にして、不世出といわれた人物である。

彼の技を記録した貴重な映像が、YouTubeにアーカイブされている。
なかでも傑作は、ジョン・F・ケネディの実弟にして、ケネディ政権の司法長官として来日した、ロバート・ケネディが、塩田の演武をみて、自身のボディーガードと対峙させた場面だ。

屈強なボディーガードが、塩田の前におもしろいように倒される。
それで、本人はずいぶん感心したようである。
これがきっかけで、合気道がFBIなどに採用されたともいわれている。

さて、この合気道。
これぞ、経営の理想型ではあるまいか。

相手を倒す、という意味ではない。
自身のコントロールで、相手もコントロールする。
つまり、達人がなにもしないで相手が倒れるのではなく、倒そうとやってくる相手が、達人のコントロールによってかってに倒れてしまう。

そこに、達人の達人といわれる「技」があるのであって、自身の身体のコントロールのために、いかなる鍛錬を要するものか?
これを実践して、体得したからこその「達人」なのである。
およそ凡人にはできない域に達した。

経営者が経営という行為にたいして、いかなる鍛錬をしているのか?
それは、経営者になる前からのものと、なってからのものとに分けられる。
合気道の達人だって、達人に突然なれるわけではない。

つまり、「育ち」というのが問題になる。
社会人としての「育成」という意味である。
よくいわれる、「後継者問題」のおおくが、経営者になる前の「育成経験」がすくないことに端を発する。

入社してからの「育成」をかんがえない企業や組織は、なんだか経営者予備群が、自然発生的に「自生」するとおもっているらしい。

そんなバカな。

たまたまのラッキーを否定はしないが、めったに「自生」などしない。
へんに自生したもの「しか」いない、とボヤくなら、それは「先代」としての見識不足を、いまさらボヤくことにもなる。

すると、まずは全員に「セオリー」ぐらいは習得させないと、その後の「育成」における「コース立て」もできない。
ようは、将来を見据えた経営者育成を、いまの経営者がやるしかないのである。

もし、これができない、わからない、というなら、外部から経営の専門家を募集するくらいの覚悟がないと、組織の存続ということすら困難になるだろう。

このとき、その専門家の発想が、柔道的なのか?それとも、合気道的なのか?を見極め、どちらを選択するのか?までかんがえて決定しないといけない。

いま、わが国の経済力が衰退しているのは、この見極めと決定ができないひとたちが、おおくの企業経営者になってしまったからだと思えるのだ。
これが、30年前の「バブルの崩壊」がつくった深刻な「後遺症」なのである。

ぜひ、合気道型の経営者を育成してもらいたいものだ。

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