毎日のメーター検針

旅館やホテルといった宿泊業では,「三大費用」といわれるものがある.
「人件費」,「原材料費」,そして,「水道光熱費」である.
それぞれ売上高比で,人件費が35~40%,原材料費が30%,水道光熱費が7%~8%が相場だから,高くみればこれら三大費用で約8割もの重みとなる.
逆にいえば,これ以外の経費は「ゴミ」である.ほんもののゴミは削減対象だが,経費の「ゴミ」削減にちまなこをあげても,「奮闘努力のかいもなく」投入した労力のわりに効果は期待できない.1%の経費を半減させても0.5%だ.それなら,まずは「大物」を少しでも減らす努力の方がはやく効果を得られる.重要なのは「早く効果を得る」ことであって,金額や率はあとの問題だということだ.早くしないと,だまって会社から現金が流出するからだ.

すべての経費を削減したい,というのは人情としてはわかるが,現実はうまくかない.
重要なのは,スピード,だから、優先順位をつけることが成功の秘訣である.

変動費は変動しているか?

費用のかんがえかたに「固定費」と「変動費」がある.
基準は,「売上高」だ.売上高は,数量×単価,という式であらわせる.これは,全産業で共通だから,「売上の公式」としてしられる.米も魚も,鉄鉱石も原油も,電気もガスも自動車も,すべてこの式にあてはまる.
売上高の変化は,単価が一定なら動いたのは数量しか原因はない.旅館やホテルなら「人数」である.売り出し単価がおなじで,昨日と今日の売上高がちがうなら,それは宿泊人数がちがうということだ.

人数が変化すると,同じように変化するのは食事の原材料費だ.一人前ずつ増えたり減ったりする.
経費削減に力をいれすぎて,原材料の仕入れを極端にケチると,あきらかに料理の質がおちるから,これでダメになる宿や料理屋もおおい.
大手コンビニにおさめる,巨大弁当工場では,一日に10万食以上を製造している.こうした工場で,原材料の仕入れをケチることは,コンビニ本社の品質管理上やってはいけない.そこで,米粒の数を均一化するという努力をしている.米一粒の誤差でも,10万粒になる.誤差の許容範囲を三粒までとして,一日30万粒の米がばらけて詰められている.誤差ゼロにしたくなるのも人情だが,機械の開発コストとの見合いになる.
牛丼や天丼チェーンそれに回転すしなどで,ご飯を一定量だすロボットが店舗ごとに配置されているのは,弁当工場とおなじ発想からである.

料理を出せば,準備と後かたづけに水をつかう.これに,風呂が自慢の宿になると,さらにおおくの水がいる.電気とガスや重油なども同様だから,水道光熱費も基本的には,「変動費」である.基本料金を気にする経営者もいるが,基本的に無視できる金額だろう.

原材料には,「仕入れ」があるから,「伝票」がのこる.いっぽうで,水道光熱費には,月一回か二ヶ月に一回の検針票がのこる.
原材料は,生鮮品なら毎日の仕入れになるから「伝票」も毎日あるが,水道光熱費は,検針票=請求書がきて自動引き落としでおわりである.
だから,管理者が毎日「検針」することが重要なのだ.
その重要性とは,「データ保存」である.もう一つは,万が一の漏洩にいちはやく気づくことである.
この,「データの保存」をしないと,「変動費」が「変動」していることの確認ができない.原材料費の「伝票」も,「変動費」としての確認「データ」なのである.

予測こそ経営者の必要情報

「データ」をあつめても,それだけでは「ゴミ」である.
ここで一定量のデータがあれば,売上高との分析がはじめて可能になる.目安は最低一ヶ月.水道は二ヶ月に一回しか請求がこないから,ひと月ではたらないが,毎日の「使用量」をみればよい.
もっとも手軽な計算方法は,いまや1,000円でもおつりが来る統計機能付き関数電卓をつかえばよい.パソコンなら表計算ソフトがやってくれる.どちらもつかう機能は,「二変数統計計算」というものだ.
なにやら難しそうだが,計算のための作業は簡単である.二変数とは,「x」と「y」のことで,ここでは「x」に毎日の「人数」,「y」には,電気や水道などの検針した「使用量」とすればよい.
「x」と「y」それぞれのデータを入力して計算をさせると,いろんな数字が表示される.
「一次回帰式」とよばれる,「y=ax+b」という直線式の,「a」と「b」も計算結果にでる.これは,のちの「予測計算」に適用されるものだ.
まずは,「r」を確認したい.「r」とは,「relationship」が由来だという説があり,日本語では「相関係数」という.これは,「x」と「y」が直線上でどれくらい離れているかをあらわすので,完全一致しておなじ直線上にかさなるなら「1」,まったく関係ないなら「0」,真逆の直線どうしなら「-1」の範囲で表示される.
客数と一致している度合いがわかる,ということだ.おそらく,「0.9」ぐらいになるのではないか.これが,「0.7」とかそれ以下なら,客数の変化と一致しないから,どこかにムダがあるかもしれない.もし,マイナス符号がつくなら,それは,客数が増えると水道使用量が減る,という意味になるから,元のデータか計算がまちがっているだろう.

「0.9」なら,90%の確率で一致していると読めるので,客数から「y」を予測することができる.この計算も,簡単な操作で,結果は自動計算である.結果の「y」の数字の正確さも,90%の確率という意味だ.
すると,もとになる予測客数には予約人数をつかえばよいので,たとえば,三日前に当日の予約人数を入力すれば,原材料や水道光熱量の確率予測が可能になる.これを料金表にあてはめれば,毎日の料金もつかめるようになる.ちゃんとデータをとっていれば,原材料の仕入れ量が確定できて実務に対応できる.

応用として,過去何年か分,できれば月次などをつかって,売上高と各費用や各利益を計算してみて,「r」がどのくらいかを確認すれば,ほしい売上高から,それぞれの確率予測が計算できるから,「r」がおおきい数字ならそれなりの「予算」を簡単につくれる.
ただし,この方法は,「過去とおなじ直線上の結果」という意味だから,過去に経営改善の効果があったりするとそのデータ分がイレギュラーとなって,「r」が低くなることがあるし,将来も過去とおなじ直線上でよいのか?ということがある.
だから,現状で「r」が大きな数字なら,むしろ過去からおなじスタンスで経営をしてきたということだから,「反省」や「警告」の意味となるだろう.それで,ほんとうの予算の参考にするなら,ムダな計算ではない.

以上,本文の意味がわからないという方は,是非,初歩の統計書か,関数電卓についている説明書を読んで挑戦していただきたい.なお,ここで紹介した「二変数統計計算」は,「因果関係」をあらわすものではないので念のため.

以前,文科省のHPに,小学生と朝ごはん,という奇妙な記事がのっていた.アンケート調査で,朝ごはんをとる子どもは成績がよい,ということがわかったから,成績をよくしたいなら朝ごはんを食べよう,というのだ.
文科省とは,この程度の役所である.国民として,まことに慚愧に堪えない.

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