科学からの提言はシンプル

ようやく「科学」からの提言がでてきた。
発言者は、京都大学ウイルス・再生医科学研究所の宮沢孝幸准教授である。
その提言とは、「100分の一作戦」だ。
先生は3月から提唱しているというけれど、ようやくしることができたので書いておこうとおもう。

ウィルス感染の仕組みのなかで、肝心要なことは、「一個」だけではぜんぜん感染しないという事実である。
ではどくらいの数かといえば、1万個とか100万個なのである。
これだけの数のウィルスに私たちの細胞が触れることで、「感染成立する」という。

さて、ウィルスや細菌などが原因となる感染症には、「再生産数」という「感染力」を示す数値がある。
面倒なのが、二種類の「再生産数」があって、省略して使われると、素人には混乱が生じやすい。

経済でいわれる「生産性」は、「労働生産性」とも「付加価値生産性」ともいうけれど、略して「生産性」といっても混乱が少ないのは、意味が同じだからだ。
しかし、感染症の「再生産数」はそうはいかない。

「基本再生産数(R0)」と「実効再生産数(Rt)」の二種類である。
基本再生産数は、「感染者が、まだその感染症の免疫を1人も持っていない集団に混じったときに生み出す新規感染者数の平均値」のことで、その病原体が持つ「素」の感染力に相当する。

「実効再生産数」は、「現実に起きている再生産数」のことだから、「対策」の効果によっても変化するし、そもそも全員の感染状況の把握も難しい。
なので、感染力をみるには「基本再生産数」が重視されるのである。

また、感染には三系統がある。
・空気感染
・飛沫感染
・接触感染 である。

空気感染と飛沫感染の区別はあんがいと困難なので、専門家でも厳密な区分をしないことがある。
空気中に浮遊している病原体から感染するのが「空気感染」なのだけど、空気中にある「飛沫」で感染したら「飛沫感染」になるからである。

今回のウィルスは、「飛沫」という意味の空気感染に意味があって、さらに、物に付着したのを手で触って自分の目や口などをこすることで感染するのが「接触感染」である。

はしかウィルスの空気感染力は12~16というほどの威力がある。
しかし、今回のウィルスの基本再生産数は、1.4~2.5という値で、はるかに低いし、法律にもなった新型インフルエンザウィルス(およそ2.0~2.4)よりも小さいといえる。

そんなわけで、今回のウィルスは、「数で勝負」することが、生き残り戦略になっているといえそうだ。
特徴的な疫学データも揃ってきていて、ウィルス数は、発症前1日~2日から他人に感染させる能力を持ち、発症後10日でウィルス数は100分の一になって感染力がなくなることがわかってきている。

ところが、発症前でも発症後10日の感染力を消失した状態ても、PCR検査をすれば「すべて陽性になる」から、ただ「陽性だから」ということだけでは、過剰な=ムダな心配なのである。
すると、ピーク時の10分の一程度でも、他人に感染させる能力を失っている可能性がある。

石鹸で手を洗うのは、100万個をゼロにするやり方だけれど、1万個にするだけでも感染は防止できる。
それは、流水だけで15秒の手洗いですむし、接触感染の危険部位は特に「指先」なので、ここを重点的に洗えばよい。

飛沫感染からは、本来、咳やクシャミをしている発症者がマスクをすれば防止できる。
それに、電車などの公共交通機関で感染したという事例はない。
無言でいれば、飛沫も飛ばない。

その意味でいえば、居酒屋などで感染するのは大声による飛沫もあるが、手洗い後にトイレのドアを触ってしまうことの方が可能性としては大きいだろう。

また、重要な知識のなかに、「免疫」があることも忘れてはならない。
われわれ人間には、三重の免疫システムが用意されている。
先天性の免疫として、「自然免疫」がある。
異物を検知したら、自動的に発動するかわりに、その異物に対しての「記憶」はしない。

二つ目が「抗体」をつくる能力。三つ目が「細胞性免疫」である。
あわせて「獲得免疫」という。これらは、生後に獲得する。
たとえば、ワクチンはわざと低毒化させた病原体を注射して、むりやり体内に抗体をつくらせるしくみである。

第一段階の自然免疫は、あらゆるウィルスなどに対応して、体内で攻撃してやっつける仕事をするから、自然に治ってしまう。
そのかわり、抗体も細胞性免疫もつくらないので、いつでも何度でも登場している。

この自然免疫という防御システムを突破されてできるのが、第二段階の「獲得免疫」である。敵にあわせて抗体をつくったり、細胞までもあらたにつくりだして攻撃し、ときには食べてしまう。

今回のウィルスに対応する抗体や免疫細胞がつくられるスピードが遅いのは、おそらく、「弱毒」だから、とかんがえられているのだ。

「頭で考えることによる感染防止」こそが重要である。
100%を目指す必要がない、ということが精神を安定させるのだ。

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