統計クイックリファレンス?

統計の教科書はたくさんあるので、どうしたものかと大型書店で悩むのだが、タイトルのお手軽さとは真逆の一冊それが『統計クイックリファレンス』だ。

600ページもある書籍が、どうして「クイック」で「リファレンス」なのかわからないけど、原著のタイトルはズバリ『STATISTICS IN A NUTSHELL』となっていて、「はじめに」では統計について既に知っている人のためのハンドブックと初めて統計を学ぶ人のための入門書との中間に位置する、と説明されている。

IN A NUTSHELL(要するに)、本書の想定読者は、
・高校や大学などで統計の入門クラスを取っている学生
・業務上あるいは昇進のために統計を学ぶ必要のある社会人
・知的好奇心から統計を学ぼうとする人々
と明記もしている。

つまるところ、統計を統計として知り、統計的にかんがえたいひとたちのための教科書であって、数学的にほじくり返すことを目的としていない。
これが、著者による本書の執筆動機で、あまたある類書とのちがい、すなわち本書の存在意義だという。

以上から、わたしが注目したいのは、二点ある。
1)想定読者が具体的に示されていること
2)本書の立ち位置を明確にしていること
である。

これは、「出版企画書」において当然の記述なのではあるが、日本の専門家による書籍だと、そうはいっても著者のひとりよがり、を多数みることができるから、あんがい実践がむずかしいものなのである。

その証拠に、数式だらけになっているのに「初心者のための」とか「統計入門」なんていうタイトルがまかり通っているし、ページ数が少ないのに統計学全体を網羅しているものもある。
さすれば表記がかたくなって、説明に丁寧さが欠けるのは必定だから、ぜんぜん初心者でも入門者向けでもない、レベルが高い教科書で読者は翻弄されることになる。

つまり、自分の知識を披露するだけで、読者の理解をうながすものではない。
こうした教科書が、なぜか日本人学者の手によるモノとしては一般的だから、アメリカ人学者が書いた丁寧な教科書の翻訳本が、いまだに重宝されるのである。

これは以前書いた「発見的教授法」の流れではないか?

すると、あらためて理系の教科書をかんがえると、世界的に売れている=学生に支持されているもののほとんどが、アメリカ人学者によるものだということに唖然とする。
そして、その特徴はどれもページ数がおおいか、分冊されるほどの分量があるということがわかる。

読者である生徒や学生に、読めばわかる、という「品質を保証している」から、どうしても説明がながくなる。
また、つまずくポイントに先回りして解説しているから、読者は安心して読み進めるようにもなっている。

何年も、何人もの生徒や学生をおしえていれば、理解のためのポイントをどうしたらわからせるかの問題を教師が問い詰めて解決してきた成果がそこにあるのである。

いまだに中学・高校レベルなら、日本人の子どもたちの理系学力はアメリカ人のそれよりも高いという。
しかし、四年後、大学を卒業するときには、ウサギとカメのレース以上に、格段にアメリカ人の学生の実力が上回るとは、日本の大学教師のよくいうボヤきである。

もちろん、入学は容易だが卒業できないアメリカ式と、その真逆をいく日本式の履修方式と落第という制度の差だという意見が多数あるけれど、自習できる教科書の品質という違いがあるとかんがえる。
これに、授業料の差も加わるだろう。

アメリカの大学の授業料は、たとえ公立大学でも年間600万円は覚悟しなければならない。
有名かつ名門という私立大学なら、年間1000万円超えは「相場」なのだ。

だから、学生はおいそれと留年なぞできないし、山積する宿題があってアルバイトに精を出す余裕すらない。
もちろん、外国人留学生には、日本的アルバイトでも就労許可はおりないから、みつかれば即国外退去処分をくらう。

つまり、四年間、勉強漬けになるようにできている。
そうかんがえると、本書を「クイックリファレンス」と訳出した、日本人学者陣の意図がみえてくる。

たかが600ページしかないのに、ちゃんと項目別に章立てされているのは「すぐに引ける」という意味であり、内容も「参照程度」ではないか、と。

なるほど、一科目だけで毎週数百ページの指定教科書を読破し、そのレポートを提出しなければ授業の受講資格を失う厳しさを体験すれば、この程度なら鼻歌まじりになるという感覚は、ただしい。

ぬる湯に浸かりっぱなしの日本の学生の将来が、心配でしょうがないのだろう。

同感である。

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