補助金に目がくらんではいけない

政府は,今年度の大型補正予算を組んでおり,そのなかに「ものづくり補助金」として1000億円を計上するという.「ものづくり補助金」とは,『ものづくり・商業・サービス経営力向上支援事業』というのがただしいので,なにも製造業だけが対象ではない.

本末転倒の闇

「補助金ビジネス」という商売がある.国(政府)や地方自治体という名の(地方政府:外国ではこちらがふつうのいい方)は,みごとに「縦割り組織」になっているし,縄張りからはずれる「組織間の連携」ということは,役人のタブーである.だから,となりの部署がどんな「補助金」を扱っているかは,その部署に訊かなければわからない.そこで,全役所の縦系と横系を網羅した「情報力」をもって,クライアントである企業の補助金受け取り額を増額させるというものだ.そして,成功報酬として,その幾分かを手数料として受け取る.もちろん,対象補助金からの直接受け取りではない.

このビジネスで有名なひとと,はなしをしたことがある.かれはいたってまじめな紳士で,だからこそ「情報」を「力」に変えることができたのだろう.そのひとが言うには,なにが困るかといえば,とにかく補助金をほしがる経営者がいる,ということだった.「とにかく」である.

自社事業とかかわりが薄い内容でも,「とにかく」いかにして受け取ることができるか?に興味があって,「とにかく」金額が大きいモノを好む傾向があるという.しかし,補助金にはたいてい「報告」とかいう紐がついていて,ながければ数年間,その「効果」を役所の当該窓口にレポートしなければならない.そこで,このビジネスには,「報告書作成」というサービスも付随する.ところが,無理して受け取った場合,書きようがなくて困る,というのだった.

無理して受け取るのは,意外にもさほど困難なことではないことがある.それは,役人の絶体基準「予算消化」という甘い罠である.これは,いま,商工中金の不正融資問題として顕在化した.本来の貸付先としては好ましくない企業にも,「不正に貸し付けた」のは,まさに「予算消化」のためだったことがあきらかになった.

もちろん,報告書が「書けない」ことは,はじめから予想できるから,このひとは,「お断り」する事例になるという.そのこころは,そんな補助金は,企業経営に資さないから,というまっとうな理由もふくまれている.

中毒化の事例

「補助金」を受け取るからある投資が安くすむ,とかんがえるのはふつうだろう.しかし,本当だろうか?かんがえる順番によって,こたえが変わることがある.それは,算数のつぎの式のようなものだ.

1+2×3=7 おなじ式のなかに掛算や割算がある場合

(1+2)×3=9 おなじ式の中に「( )」がある場合

例1:たとえば,旅館のロビー照明を変えたいとかんがえたとき.そもそも,「変えたい」理由があるはずだ.器具が古くさくなったとか,薄暗いとか,あるいは玄関の改修計画とデザインの統一性をもたせたいとかして「くつろぎの空間」にしたいとしよう.すると,どういった方法が,もっとも「変えたい」とかんがえたことのこたえとして合理的かが決定基準になる.

例2:ところが,なにもかんがえていなかったけど,「旅館のパブリック・スペースにおけるLED照明化にあたっての補助金」というものがあって,いまならほとんど「先着順」状態で受け取れる,という情報を入手したとしよう.すると,さっそく取引先の電気屋さんに連絡して,「見積書」を依頼するだろう.でてきた「見積書」の金額が,補助金の限度額に比べて余裕があるとわかれば,廊下部分の「見積書」を追加するだろう.こうして,「安く」高価なLED照明が設置できて,電気使用量も削減できたから,本当に万々歳!となるのだろうか?

例1の場合,全面的なLED照明の導入が「最善の解決策」になるのか?という問題がある.時期にもよるが,少し前なら,LED照明の「光」の質(波長)が,ひとの目には優しくなかった.紫外線寄りの冷たくするどい光が,LED照明の特徴だったから,ロビー照明としては「くつろぎの空間」をつくりにくいという難点があった.だから,一部スポット的にLED照明を導入したとしても,それは全体デザインとしての必然であって,補助金目的ではないことは十分ありえることになる.すると,補助金受け取りの手続きと,その後の「効果」をレポートする必要は,かなり薄くなってしまう.

例2の場合,「照明だけ」を交換することになるから,つけてみてやたらと明るいことに気がつく.そして,さまざまな汚れや老朽化箇所がめだつようになって,どうしようかと困ることがある.さらに,お客様には「まぶしい光」(白内障患者には不快な光)なので,落ち着かず,ロビーから人影がなくなることもある.廊下も不自然に明るくなるので,床の汚れまでも浮き上がって見えてしまう.すると,あろうことかロビーからではなく,その旅館の利用客が減ってしまうこともあるのだ.

かんがえる順番をまちがえると,とんでもないことになる事例だ.

さらに,補助金を優先させると,投資のタイミングがずれることもある.やりたい投資に補助金がつかないなら,先延ばしにして,補助金がつくまで待ってしまうのだ.こうして,経営資源としてお金ではけっして入手できない「時間」という意味の,適正な時期,を失うこともある.

ダイヤモンドならぬ,補助金に目がくらんでしまっては,取り返しのつかなくなることもある.くれぐれも,ご注意を.

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