連立方程式の企業経営

3年前の2015年9月に改正された,労働者派遣法で,派遣労働者の訓練が義務化された.
外国では一般的な,仕事にもとめられる能力の特定,がようやくはじまったともいえる.
派遣会社は,自社で教育訓練をして,本人を派遣先におくる,あるいは,派遣先に依頼してOJTを受けさせることになる.

このとき,教育訓練を受ける労働者には,所定の賃金が支払われることになるから,派遣会社はこの費用を負担しなければならない.
結果的に,受益者である派遣先が派遣料のかたちで負担することになるはずだ.

しかし,派遣社員という働き方をえらんだひとには,キャリア・アップのための手段になって,自分を高く売ることに役立つことになる.
もちろん,単価の高い派遣社員を派遣する会社は,相手企業から単価の高い報酬を得られるから,お互い様の関係である.

これは,派遣労働を単純労働に固定するということではないですよ,という意志表示だろう.
また,正社員への登用,ということも視野にあるから,単純労働しかできない,のでは本人の絶望だけでなく雇用主もこまる.
トータルすれば,派遣社員の労働の質がたかまって,雇用主の支払う費用が上昇することを意味する.

これはかならず直雇いの場合とリンクするから,雇用主には対応の選択肢が二通りある.
よりいっそう安価な労働力をもとめるか,人件費上昇分を別の費用で相殺しながらも売価を上げるかである.

おそらくは,外国人労働者が前者にふくまれるだろうから,一歩まちがうと道をはずすことになる.すでに奴隷労働的だとして批判を浴びる企業がでてきている.
この批判を避けるには,国籍はとわず正規の賃金や労働条件を提示するしかないから,じつは,よりいっそうの安価な労働力をもとめることは,たとえ移民を受け入れてもすでに困難になってきている.移民は,頭かずでしかないのだ.

すなわち,人件費上昇分を別の費用で相殺しながらも売価を上げる,という方法に日本企業のすべてが追いつめられているのが実情だ.
だから,こちらの意味でも従来の戦略の見直しは必須である.
単純に人件費を価格に上乗せしました,で消費者の支持が得られることはないだろう.

業務委託・受託の契約関係でも,労働環境はおなじだ.
すなわち,自社における内製よりも,専門の業務受託先に外部委託したほうが安価にみえた業務も,急速に状況が変化してきている.
人手が確保できずに,受託先が突然に業務を停止してしまって,委託先の営業ができなくなるリスクが拡大している.

それは,情報ギャップが原因であるから,委託先がたえず受託先の人員状況を確認しなくてはいけなくなった.
ところが,それで人員状況が悪いとわかっても,すぐに代わりの受託先をみつけることができないし,みつけたところで引き受けてくれる可能性もひくい.

つまり,八方ふさがりの状況がうまれている.

なんのための業務委託だったのか?という根本の問題になっている.

それで,ぜんぶの業務を自社の内製にかえる人的サービス業の企業があらわれている.
つまり,全員を正社員として採用するから,パートもアルバイトもいない.
結局,終身雇用にもどったのだ.
しかし,こんどの終身雇用は,ほんとうに終身で,定年がない.公的年金問題が,事実上そうさせるからだ.しかし,いつまでも,現役時代の半分以下になる年収に甘受できないはずだ.

キーとなるのは,社員の人生設計とのマッチングにある.
しかし,派遣社員で導入された,仕事にもとめられる能力の特定,が正社員にも適用されてセットになるだろうから,徐々に従来の「生活給」というかんがえ方から離脱するのではないか?
定年後再雇用の年収半減も,生活給を前提に屋上屋を架した結果にすぎない.

ハワイで起きた,ホテル労働者の長期ストライキの要求は,「この仕事『だけ』で生活できるようにしろ」である.
日本における戦後の「生活給」というかんがえ方は,ある意味,若年層には能力以下の賃金だが,家族持ちにはその逆をあたえることで「生活」ができるようにした方便だった.

しかし,もはや企業にたとえ方便でも配分する根幹の余裕がなくなった.
だから,仕事にもとめられる能力の特定,と,人生設計がマッチしなければならなくなった.
けれども,むかしとちがって本人の人生設計すら一律ではない時代でもある.
すなわち,キャリア・プラン,の存在が俄然おもみを増すようになった.

どんな階段を登ると,どんなゴールがみえてくるのか?
企業は,そのゴールをみせなくてはならなくなったのだ.使い捨てはもうできない.
ゴール・イメージがマッチしなければ,募集してもひとは来なくなる.
これに,賃金その他の条件がセットになるはずだ.

すでに,日本のメガバンクが学生の就職人気を失ったのは,賃金よりもゴールが暗いからである.

つまり,終身雇用でも,こんごは年功序列ではない.
キャリア・プランをいかにクリアするか?になる.
そして,終身雇用だが転職も前提になる.
よりよい条件が提示されれば,別の企業に移っても,おなじく終身雇用は条件になるはずだ.

企業経営は,お客様相手の方程式を解く時代から,従業員をくわえた連立方程式を解かなければならない時代になったのである.

すると,これはかならず就職前の「学校教育制度」の不具合というに問題に波及することになる.

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