階段は必ず手すりにつかまる

登るときも降りるときも、必ず手すりにつかまる。
エスカレーターは、うごく階段だから、やっぱりおなじで、必ずゴムベルトにつかまる。

「化学メーカー」の厳しい社内ルールのひとつである。
これは、「安全」にかかわるルールで、その安全とは、「労働安全」のことである。
すなわち、「労働災害」を未然にふせぐことが目的である。

化学薬品をあつかうから、化学メーカーの社内として、たとえ事務スペースであっても「例外を認めない」のだ。
さいきんの化学では、摩擦を激減させる薬品だって、少量でも機能を発揮するから、「もしも」それが付着した靴底でスベってケガをしたら、それだけで「事故」になるのである。

こんなことは「業界人」ならば、当然で、新入社員からたたきこまれる。
だから、駅のエスカレーターで、しっかりベルトにつかまっているひとや、若いのに階段の手すりにつかまっているひとを見かけたら、化学メーカーに勤めるひとだとおもってまちがいない。

社内の習慣とは、社外で発揮されてこそだからである。
つまりは、たんなる「生活習慣」になって、はじめて社内でのルールが社内でまもられることが成就するのだ。

人間を訓練するのに、「生活習慣」にまでするのは、けっしてたやすいことではない。
むしろ、生まれてから育った、ほんとうの「生活習慣」とはちがうことをさせられるとき、ひとはかならず反発するものだ。

この反発は、容易に「拒否」というレベルになる。

さて、読者のあなたが、上司として、新入社員にどうしたら「生活習慣」レベルにまで教育訓練をして仕込むことができるだろうか?

「命令」するだけでできるか?
あるいは、「懇願」すればやってくれるか?
「生活習慣レベル」である。

たいそうむずかしいとおもうだろう。

すると、ちょっとまってほしい。
だとすると、どうやって日常業務が生活習慣レベルになったのだろうか?
たんなる「慣れ」とはいかないのは上記の例でわかるはずだ。

つまり、予測できることは二つ。
一つは、なんとなく覚えたことが、日常業務になったパターン。
一つは、しっかり説明を受けて、先輩や上司から繰返し指摘されているうちに慣れてきたこと、である。

生産性があがらない、というぼやきが聞こえてくるのは、さいしょのパターンだ。
なんとなく覚えたことが習慣になっているので、これは職場全体が「なんとなく」に包まれている状態にある。

もう一つのほうは、「意思」がはたらいている。
だから、こうした職場は、合理的なやり方に変更することをいとわない。
時間がたてば、すっかりやり方が変わっていて、別の職場から出戻りすると、「浦島太郎」の気分が味わえる。

だからといって、ぜんぶがすっかり変化しているかというとそうではない。「コア」な部分は、しっかり守られているもので、そのことがむかしの記憶を呼び戻すものでもある。

「仕事」や「業務」には、「意思」がないといけない。

それは、最終的にその「仕事」や「業務」の、そもそもの「目的」や「目標」が達成されなければ、やった意味がなくなるからである。
「意味がない仕事」とは、たんなる「無駄」だから、それで生産性があがるわけもないし、会社の業績もよくなるばかりか悪化して当然になる。

「悪化」ならまだしも、「赤字」となって、これから脱出できないと、倒産の憂き目にあうのが世の中の厳しさだ。
しかし、この厳しさは、物理法則のようなもので、誰にだって容赦ないから、誰だってそうならないようにするのが人間というものだ。

つまり、業績が伸びない、悪化している、ということに気がつけば、「対策」をかんがえて実行することになるのだが、どうしてそうなったのか?の原因をしっかり追求しないという、非科学的方法をえらぶものだから、「意味のない努力」のスパイラルにはいってしまう企業組織は山ほどある。

その原因が、「習慣レベル」の意味とその「効果」を考慮しないことにあるのだ。
よい習慣はかならずよい結果をもたらすが、悪い習慣はかならず悪い結果をもたらす。

子どもへの説教のようであるけれど、こうした原則論すらわからないで「おとな」になった「父ちゃん坊や」がそこら中を闊歩している。
軍隊のように、下位のものたちに命令すれば、そのとおり実行される、というたわごとも、父ちゃん坊やならではの浅はかさから発言される。

ふだんからだれからも尊敬もされない上官が、いきなり「突撃!」と叫んだところで、だれが敵前に飛びこむものか?

命令が命令として機能させるために、ホンモノの軍隊は、一般人がかんがえるよりはるかに高度な「心理戦」を、内部組織をあげてやっている。
こうして、「信頼」という絆をつくって、はじめて命令がそのまま実行されるのである。

感染症が流行しているいま現在、化学メーカーの社内あちこちに手指消毒剤が置かれているのは、それでも「手すりにつかまる」ことをやめないからである。

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