雪かき

小学校でならう日本の歴史に,律令国家の税制がある.
「租」,「庸」,「調」,あわせて「租庸調」とおぼえれば点数がもらえた.
いまの税制では,基本はお金で納めることになっているが,現金がなければ物納も可能である.
なので,労役である「庸」がない.
あえていえば脱税して有罪が確定すれば「懲役」になるが,行動の自由をうばわれたうえでの「労働」なので,「庸」とはいえまい.また,「懲役」であっても,「給与」はでる.
そんなわけで,現代には「労役」としての「納税」はなくなった.

生活のうえでの公共的労働は,ある意味,現代における「庸」なのかもしれない.

「庸」としての雪かき

雪国なら当然でも,めったに雪のない太平洋側,それも首都圏では,「雪」というだけで事件である.
冬タイヤの装着があたりまえではないから,数センチの雪でも立ち往生する.
年に数回しか降らないものに,タイヤで数万円から10万円ほどの出費はしない.だから,「雪」とわかれば,素人は運転をしない日ときめる.
しかし,玄人は運転しないわけにもいかず,冬タイヤの用意もないからえらいことになる.

むかし,エジプトに住んでいたとき,年に数回しか降らない「雨」で,カイロの都市機能がマヒしたのをおもいだす.
「雨」といっても,車のフロントガラスは,ぼたん雪が付着したようになる.「砂」が混じっているからだ.歩行者は濡れると服がシミになって落ちないので走り出す.もちろん,傘などだれももっていない.「砂」といっても,龍角散のような微細な粒子である.降り出してたった数分で,自動車の運転が困難になる.砂が前方の視界を遮断するからだ.
おおくの自動車には,ワイパーもウォッシャー液も搭載がない.年に数回しか降らないから,ワイパーは必需品ではないし,ウォッシャー液は入れておいても乾燥でカラカラになるから,いざというときにからっぽなのだ.そして,歩道下数十センチの砂に埋設してある電線がショートして,数メートルの火花があちこちで飛び,そのブロックは停電する.電線の被覆がやぶれていても,ふだんの乾燥で漏電しないからわからない.これで,信号も消える.

日本のはなしにもどろう.
日が当たる道なら,すぐに溶けてしまうが,日陰のばあいは凍結するから危険である.
屋根の雪下ろしをするほどの量はないが,雪国では雪下ろしの手伝いで,新参者が仲間として認められると聞く.
むかしは,玄関先から敷地がある道路面は自家の責任としてきれいにした.これは,ふだんの掃き掃除の延長というかんがえだったが,高齢化でこれができなくなったから,路地はまだらになった.若いひとがいるエリアだけがあるきやすい.

商売の刻印にもなった

ふだんから気になる店というのはあるもので,なぜか入店していないが外から垣間見てチェックする,という場所が何軒かある.
そんな店のなかで,自店の店先がみごとなアイスバーンになっているのを発見すると,「雪かきもしないのか」ということをスタートラインに,「『ウエルカム』という意識がない」とかんがえたり,「こんな店に入らなくてよかった」とかと,連想がひろがる.
そもそも.入店も危険だが,店内から出るときが危ない.アルコールをだす店でこれはないだろう.

北側の歩道に面しているから,一週間たってもアイスバーンのままである.「雪」のうちになら排除もできるが,踏み固められて凍ってしまうと,つるはしでけずるしかなかろう.すると,この店の前をとおることが「危険」だから,気づいたひとは反対側の歩道を選んであるくようになる.すでに,それが習慣になったひともいるはずだ.

ようするに,自分の店さきにひとがこないようにしているのだ.
氷雪が溶けても,ひとびとの記憶に刻印される「危険」という警報は,きっと夏になっても消えないだろう.

毎日述べ2キロを清掃する会社

開店前に,従業員総出で近所の清掃に励む会社がある.その距離が2キロ.
「お客様の自社への通り道」だからというのが理由である.

清掃でキレイになるのは,道路だけではない.
従業員たちの精神も,それを毎日みているご近所さんたちの精神も,そして,その活動をしっているお客様の精神もキレイにする.
だから、この会社で売っている商品は,いっさい値引きなしで売れている.
しかも,わざわざ遠くから買いに来るひとがたえない.
この会社で買えば,何年も安心してつかえるから,買った側が「値引きはなくても最後は得」だとおもうのだ.それは,手放すときの「査定額」のちがいにあらわれる.

この会社が売っているのは,わが国の巨大自動車メーカーの乗用車である.
つまり,この会社は「カー・ディーラー」だ.
同型車が何万台も製造されて,国内だけでなく世界に輸出されるものを売っている.
この会社のお客様が買っているのは,自動車なのだが自動車そのものの価値とはちがうものを追加して買っている.これが「付加価値」である.
自動車はメーカーが製造しているが,この会社は「安心」を製造している.

だから,この会社は周辺に歩きにくい「雪」を残さない.

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