6800円新築ホテルの完成度

夫婦2人、ツイン・ルームでの1泊素泊まり料金である。

部屋は広く(20平米)、「ツイン」のベッドはセミダブル(1200×2000)が2台ある。
バスルームの床面は、客室と「フラット」で、高級ホテル仕様の建築だ。
また、トイレとべシンの奥に、洗い場付きの風呂になっている。
このため、風呂桶は日本の家庭用タイプの深型で洋風ではない。

デスク周りの機能は充実していて、デジタル時計と温度計付きLEDスタンドがあり、テレビは大型ワイドモニター(三菱電機製)だ。
電源コンセントは3個、テレビ用HDMI端子、有線LAN、充電用USB(タイプA)が2個ある。
もちろん公衆無線Wi-Fiもある。
なお、地元情報はQRコードからの提供が試みられている。

ベッド周りも、室内照明類のスイッチだけでなく読書灯があって、ここにもUSBが2個用意されている。
エアコンは、効率のよい「個別空調」で三菱電機の『霧ヶ峰』、空気清浄機はパナソニック製である。
ワードローブはないが、デザインされた壁にハンガーが6本掛かっていて、シューズクリーナー、ブラシ、靴べらもある。
室内ばきはウレタン製のサンダル型スリッパと使い捨てスリッパの2種類がセットされている。

残念ながら,白色LEDの光源は蛍光塗料によるタイプのはずなので,紫外線が強く目にわるいから使わなかった。

なお、デスクには電話機がある。
今更だけど、携帯電話の普及から電話機のないビジホがあるし、このクラスのホテルの部屋に電話があるのは、「特記」すべきことだ。

その他の機能は、ロビーフロアに集中している。
大浴場、レストラン、自販機、製氷器などだ。
チェックインは、2台の自動チェックイン機で行うが、係員の窓口は検温などのコロナ対策だけだった。

コロナ後はどうするのか?と余計な心配をしたのは、チェックイン機渋滞が発生しても、人間の従業員は無関心を貫いていたからである。

このホテルの立地は、完全に国道に面したロードサイドなので、いわゆるアメリカの「モーテル」である。
なお、高速道路のスマート出口もあって、パーキングエリアのコンビニに裏(一般道)からもアクセスできる「便利さ」がある。

なので、ホテル駐車場は広く、平面駐車場だけになっているが、玄関近くに大型バス用のエリアがあるのも注目である。
そんなわけで、いったん客室に篭ってしまえばすこぶる快適なのである。
ただし、長期滞在向きの機能性はないので念のため。

このホテルをどう評価するのか?と問われれば、「LCCのようだ」といえるのではないか?
この言葉の意味をもっと厳密にすれば、航空機のトイレのようなのである。

運賃が格安のLCCは、「客室」の座席数を稼ぐために激狭状態で詰め込まれるけれども、そうではない会社の「エコノミー」とで比べたら、トイレは同じという機体の設計での仕様変更がないのと似ている。

実は旅客用航空機における客室設計の中で、最難易度なのが「トイレ」なのである。

あの狭い空間に、地上と同様の機能を詰め込むだけでも気が遠くなるのに、水回りのうち洗浄水と汚水を完全に分けながら、高度1万メートルの気圧と温度変化に対応させるのは、素人でもその難易度がわかるのである。
なので、座席の仕様は変更できても、トイレの仕様は変更できない。

わが国の「ホテル文化」で、特筆すべきが「ビジネスホテル」というジャンルになった。
いわゆる、「寝るだけ」という需要を満たすための「機能性に特化した」という意味での進化で、それが「規格化」されたチェーン展開を成功させているのだ。

その見えない原動力が、30年続く「デフレ下」という、日本独特の経済状況にある。
もっといえば、日本人が高単価ホテルを利用できない、という貧困化があるということだ。

しかしながら、「企業努力」によって、2人で6,800円でも「機能性」における満足度を高めている。
こうした「体験」を繰り返したひとたちは、たとえば68,000円のホテルにどんな価値を認めるのか?ということになるのは確実なのだ。

もしそれが、旅客機のトイレと同じだと認識したら、高級ホテルの国内需要は従来通りの成長とはいかない。

もちろん、「円安」という背景も手伝って、外国人には日本円建での「高級ホテル」も割安感があろう。
しかし、おなじ外国人でも、機能性だけを買うとしたら、もっと割安なのが「新築ビジホ」になるのは当然だ。

すると、高級を謳うホテルほど、ビジネスホテルの進化に無関心ではいられない。
「安かろう悪かろう」が崩れてきているのである。
むしろ、高額なほどに、その価値は何か?をこれまでより強く問われ出している。

ちょっと前、「いつかはクラウン」という時代があって、高級車が一番売れていた時期があったのに、「レクサス」ができたら、「クラウン」が中途半端な車種になった。
それが今では、軽自動車がいちばん売れているのだ。

高級ホテルも、「レクサス」かそれ以上を目指してどうするか?が問題になっていて、「クラウン」のままでは淘汰される危険があるということだ。
衝突安全性を除いたら、今の軽自動車の機能性は、かつての高級車を凌駕していることを意識していい。

高級ホテルにあって6,800円のホテルにない、を探すより、6,800円のホテルにあって高級ホテルにない,を先に探さないといけないのである。

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