企業活動を制約するかんがえ方に、「企業の社会的責任論」というものがある。
企業からすると、「社会的責任を負うこと(負わされる:被害意識として)」としてとらえられるものだ。
これには、いわゆる「企業悪玉論」という背景もある。
その「企業悪玉論」を生んだのは、高度成長さなかの「公害」や「食品」、「薬害」など、予防コストを惜しんだ、「利益優先主義」が社会からの猛烈な批判を浴びたからであった。
さらにその後に追い打ちをかけて、決定的となったのが、石油ショック時の、石油元売り各社による「価格カルテル」の摘発があったし、物価上昇局面と物不足からの、「総合商社」による「買い占め」問題への批判だった。
ただし、冷静に思い起こせば、「トイレットペーパー・パニック」のように、消費者の側も、けっして「冷静」とはいえなかった。
これは、「うわさ」が「デマ」に変換されて、なぜか、石油不足 ⇒ 紙不足 ⇒ トイレットペーパーがなくなる という順での「買い占め行動」を誘発し、それが爆発的拡大をした。
ついぞ半年前のティッシュペーパーや紙マスクの不足だって、これとあんまりかわらない事情からの「買い占め行動」となったし、東日本大震災のときのコンビニがカラになったのもおなじだ。
つまり、企業を批判しながら、自分たちは「防御行動」だと自分にいいきかせながら、しっかりと買い占め行動をすることに、矛盾はないと発想しているのである。
それに、買い占めの対象になるのが、たいがいは「単価の安い物品」という特徴もあって、なんだか貧乏くさいのである。
これは、重要な事実だ。
興味深い例に、大統領選挙をめぐる暴動など、混乱が予想されたニューヨークのスパー・マーケット店内が、買い占め行動によって「カラ」になった、というわが国マスコミの「現地レポート」に、ニューヨーク在住の日本人が、「クリスマス前」とか、「週末のいつもの光景」だと曝露したものがある。
あたかも、日本人の買い占め行動の常識と、アメリカ人とくにニューヨーカーも、「おなじ」だというレポートは、これを信じる日本人を端からバカにしているか、アメリカ人もバカにしているものだった。
けれども、現地日本人の曝露をしらないで、「アメリカ人もおなじ」だと思い込んだひとも多かろう。
これが、「グローバリズム」を推進する、「グローバリスト」たちの所業なのである。
「人類」はおなじ価値観だ、という決めつけは、恐ろしいほどに「薄っぺら」な発想だ。
左・右を問わない、全体主義者は、「人類は皆兄弟」というスローガンを、美しい理想だと信じているものだ。
そんなわけで、薄っぺらなひとたちの薄っぺらな発想で、企業組織も汚染され、企業の意思決定も薄っぺらとなる。
まさに、「企業はひとなり」。
すべての企業は、人間が所属する組織でできているからである。
だから、企業を眺めるときに、その規模や有名度とかで勝手に判断してはいけないのだ。
個々人の集合体が企業をなすので、薄っぺらな発想が組織を支配しているなら、どんなに高学歴の個人も、けっして逆らえない力学がかならず作用する。
ニュースになっているキリンホールディングスとは、ようは「キリンビール」だ。
すなわち、わが国を代表する「財閥」、三菱グループの主要企業でもある。
三菱鉛筆以外の「三菱」は、ぜんぶ三菱グループの企業群である。
当該企業が、どんな情報分析のもとにミャンマーにおける「軍系との提携解消」を判断し、それでどうしたいのか?がわからない。
現状、報道だけしかないのが大不満だ。
以下の「推測」は間違っている可能性もあるのでご承知おきを願いたい。
この企業の判断とは、クーデターを起こした軍との関係を断ち切る、ということだ。
すると、クーデターを起こしたことが、民主主義には「悪」だから、このままでは企業の社会的責任が果たせない、ということだろう。
すると、この企業組織を構成するひとたちを代表するトップは、「軍と民主主義」についての判断をしたも同然ということになって、拘束された民主派を企業として支援するという、きわめて政治的な判断と行動だということになる。
今回のミャンマー(元は「ビルマ」)での出来事は、ミャンマーという多民族国家の複雑さと、これにかかわる歴史の複雑さいうマグマの爆発でもあると前に触れた。
英米を中心にする、「民主派」への大支援の背景に、彼らのアジア支配という歴史がからむし、わが国のかつての「占領」だってからむのだ。
スー・チー氏の父、アウンサン将軍(建国の「父」ともいう:日本名は面田 紋次(おもた もんじ))が、最後に敗色濃厚な日本を裏切ったのだという事実が意味するのは、その判断の前までは、日本と「べったり」だったということである。
はてさて、当時のビルマが独立したのは、どこからか?
1943年(昭和18年)のことで、当然だが大英帝国からの独立である。
これは、2年前のマレー半島上陸作戦からによる。
『怪傑ハリマオ』の時代なのだ。
そして、彼は、実在の人物だ。
ビルマ独立義勇軍(いまのビルマ国軍:ミャンマー軍)を組織したのも、日本であったけど、現地人の創設者は、アウンサンであった。
独立後のバー・モウ政権下、彼は国防相になって、ビルマ国民軍に改組したのである。
さてそれで、キリンの判断の意味とは?
薄っぺらな、「コンプライアンス」としての「いい子になりたい」でなければよいのだけれども。