「痛み」を緩和する医師がいる診療所である。
本当の専門は、整形とかということもあるけれど、「麻酔」の専門家がやっているのを見つけることができる。
西洋医学は、基本的に全部が「対処療法」だ。
むかし流行った韓ドラのうち、『チャングムの誓い』は、DVDボックスを購入して、何度も観ていたので、「セリフ」を暗記してしまった。
医女になったチャングムが、主治医として王様に向かって言うのが、「病を治すのは医師ではなくて本人の身体だ」というセリフが繰り返しでてくる。
まことにもっともなことを言うものだけど、このドラマは全部がフィクションである。
この意味で、およそ「ファンタジー」にかけては、韓国人の想像力の豊かさは特筆に値する。
なお、儒教と事大主義の威力を学べる、という点でも「傑作」なのではなかろうか。
他に、キム・ヘス主演の『張禧嬪(チャン・ヒビン)』が双璧だ。
こちらは、歴史的に有名な「悪女」の物語で、何作かあるなかで主演の(狂気じみた)熱演が光る。
夏の夜の怪談に匹敵する。
さて、ペインクリニックに行くわたしの場合は、先月のiPadでの読書に集中したことで発症した、眼精疲労と肩こりである。
整体マッサージに通い、眼科も受診したけど、とにかく頭痛までしてくる「重症」と、自己診断している。
目の奥が痛いのである。
それが、首筋から肩にかけての「コリ」になって、頭痛を引き起こしているようだ。
整体師の話によれば、筋肉の緊張が著しいと。
もちろん、これをほぐすことは重要だ。
実際に、これでも当初よりは良くなってきていると自覚もしている。
しかし、やっぱり辛いのである。
そんなわけで、ペインクリニックに行こうと決心したものの、どこがいいのかわからない。
ネット検索してみたら、なんと自宅より数百メートル先にあるではないか。
さっそく電話してみたら、「完全予約制」という。
最短で、今週末。
待ち時間が長すぎる。
何回か別件でお世話になったクリニックにも電話をしたら、「ペインクリニック部門」はやめたという。
理由をきいてもせんないので、そのまま電話を切った。
それで、3軒目は、カレンダーで当日予約可、ただし受付はネットのみ、とあったのでここにした。
行ってみたら、何に驚いたかといえば、その「ボロボロ感」であった。
およそ今どきの「クリニック」とは縁遠い、老朽ぶりで、鄙びた待合室にもポツポツと数人の老人しかいなかった。
そして、受付の女性も、おなじく鄙びていた。
一瞬、どうしようかと思ったけれど、この鄙びたひとが手にしていたのは、さっきネットで申し込んだわたしの予約票であった。
早い。
のか、初診予約がいないのか。たぶん後者だろう。
あとは、初診の問診票への記入だ。
待合の大型テレビでは、朝のワイドショーをやっていた。
これを、数人の老人たちが黙って無表情で観ている。
ついうっかり観ていると、噴飯物のコメントが繰り広げられている。
それでも無表情で観ている老人たちを観ていた。
診察室では、あんがいと若い(同年代か?)医師が笑顔で迎えてくれた。
肩を揉んでくれながら、おもむろに「レーザー照射」をするという。
これは、「注射」よりは効きが悪いけど、安全性には定評がある血行促進法だと説明してくれた。
それで、一回330円。
老人だと、110円。
「そりゃあ、ブロック注射とかね、きれいなビルを借りて、きれいな看護師さんを数人雇ったら、すぐに注射を打っちゃいますよ」とはじまった。
「でもね、リスクがないとはいえない。こんなに筋肉が硬かったら肩こり、辛いでしょうが、これも加齢でね。だからといって、チマチマこうやって110円とか330円をやっている自分も、若いときとは違って、注射打っちゃおうか、とも思うんだけどね。こればっかだと食べていけないから、こんなボロボロでさ」
「まあ、何回か通ってもらって、330円で。今日は初診料とかいろいろだけどね。それで、レーザーじゃダメだとなったら、いよいよ注射をかんがえましょ。ときに痛み止めとかの薬、とりあえず一週間分出しとくから」
「それとね、診療時間の始まりから遅めに来ると待ち時間が少なくて済むよ。なにせ老人たちは早く来るから。一巡するころを見計らうといいですよ、夕方だと5時半頃ね」
もしや「当たり」の医院かもしれない。
対処療法の注射をして症状が消えたとしても、「治った」にはならないよ。
自然治癒の血行促進がなによりだからね。
なんだか「チャングム」のようなのである。