地銀統合と無関心

「人事」のことを「ヒトゴト」と言って,「他人事」と掛けることがあるが,このテーマは「他人事」の「ヒトゴト」ではない重要さをもっているはずなのに,あんがい「ヒトゴト」だとおもっている経営者はおおい.
政府部内で真っ向対立しているから,成り行きをながめているのかもしれないが,自社は「どうしたい」というアンカー(錨)をうっていないと,激流にながされてしまう危険すらある.

「競争」についての専門部隊が「公正取引委員会」であって,おもな法律は「独占禁止法」である.
一方,地銀は金融機関なので,規制当局といえば言わずと知れた「金融庁」である.
先月,金融庁の有識者会議「金融仲介の改善に向けた検討会議」というひとたちが,「地域金融の課題と競争のあり方」と題する報告書(官庁文学)を発表した.
例によっての「官庁文学」だから,誰に対して読んで欲しいのか?という根本的な観点が欠如しているが,これは「有識者」のみなさんの識ったことではないのだろう.

金融庁のお節介は,ノーパンしゃぶしゃぶ問題発覚で分離された,大蔵省銀行局時代からの伝統で,民間人には銀行経営はできない,という前提がある.
その証拠が,「はじめに」の最後に,「なお、本報告の取りまとめにあたっては、日本銀行より多大なるご協力をいただいた。」という一文である.

つまり,あの城山三郎をして「御殿女中」「小説日本銀行」と言わしめた,日銀という組織は,とっくにその独立性を失って,政府の御殿女中に変容している.

ちなみに,政府からの独立をうたった新日銀法ができたのは,なんと1998年(平成10年)のことであって,第二次安倍内閣は「アベノミクス」において,この法律を「改正」して,日銀を政府に従属させようとした.それで組織防衛のために,みずからの首を差し出したのが白川総裁で,「大蔵省」財務官だった黒田氏によって無血開城させていまにいたる.ここに,武士の情けはひとつもない.

公取委と金融庁の正面衝突は,長崎県の地銀統合問題から発する.
「人口減少」は地域経済の縮小も意味するから,県単位での地銀,という配置では経営が成り立たないから,県をこえて広域金融にしないと生きのびることはできない,という金融庁の主張に対して,そんなことしたら地域独占になって利用者の選択がなくなるからダメ,と言っているのが公取委の主張である.

要は,市町村でやった「平成の大合併」とおなじ発想なのが金融庁なのだ.
その市町村は,「人口減少対策」と称して,他地域からの「移住」にやたら熱心である.これは,完全ゼロサム・ゲームなので,一方が増えれば一方が減る.国全体としての人口が増えるはなしではないから,「事業」としてマクロでみればムダそのものである.

そもそも,地銀が一県一行というのも,地方紙が一県一紙なのも,国家総動員法による戦時体制がはじまりである.
金融庁は,この体制を維持することに汲汲としているから,だれのための合併(経営統合)推進なのか?といえば,業界優先,という鉄板ルールはかわらない.
つまり,民間人に金融機関の経営はできない,からお国が面倒をみてやるよ,というはなしである.
しかし,これは裏を返せば自らの権限を手放したくない,ということそのものだ.

すでにメガバンク三行は,個人の買いもの等の決済手段を統合したシステムを開発済みで,また,通信会社によるスマホを決済端末としたサービスもはじまった.
これが普及するとどうなるか?

キャッシュレス社会が日本より先行する中国では,個人の買いもの決済情報と企業の売上情報がリンクしていて,これに企業のキャッシュレスな仕入れ取り引き情報を組合せ,「信用情報」を構築している.
つまり,少額の運転資金の融資なら,経営者がスマホ・アプリをつうじて瞬時に実行されるサービスが実現してしまっている.

当然,これからの進化は,融資枠の拡大と,融資内容の自動化になるだろう.
つまり,これが意味することは,金融機関が貸出に応じる根拠が,企業活動情報,であることであって,日本の金融機関がいまだに不動産担保から抜け出せないのとは次元がことなるのだ.

これは大変なことになる.
キャッシュレス社会は,金融機関の店舗縮小だけでなく,融資審査をも自動化させる.すると,利用者側は,納税も自動化となれば,担保設定のための登記もいらない.
これだけでも,税理士と司法書士の苦悩の時代がはじまりそうだ.
すると,会社経理はどうなる?
商業高校や経理学校での簿記の授業は必要か?

宿の予約サイトのように,金融機関の融資サイトが林立し,これらサイトをひとまとめにした,もっとも有利な融資先が選択できるサイトもうまれるにちがいない.
すると,利子率は?
中央銀行の役割は?
ましてや,金融庁の存在意義は?

わたしたちの生活や職業までもがまちがいなく一変する.
もう間もなく,確実にやってくるから,無関心ではすまされない.

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