外国進出という生存策

歴史や文化の消費は,むかしからおこなわれてきた.
ふつうの物質的商品であれば,消費は資源の減少をともなうけれど,消費の対象が歴史や文化のばあいは,かえって活性化させるから,これらを含む観光が振興するのはよいことである.

一方で,消費のしかたを誤ると,伝統的なものでもいっそうの困難を生むことがある.
たとえば,割り箸である.「箸」という食器をつかうのは,東アジア文化圏独特のものだろう.国によってさまざまな材質の「箸」がつかわれる.たいへんな贅沢品は,象牙製のものだろう.金属製のものもある.
使いやすさという点では,木製のものが軽くて持ちやすい.これに,加工をほどこして,繊細なものまで容易につかめるようにするのは職人技のたまものである.

割り箸ができたのは江戸時代のようだから,これも日本人の発明品だろう.
間伐材からつくるから,国産の割り箸は消耗品でありながら,森林資源の保全に役立っていた.これを,外国産も含めて,森林破壊,といったから,プラスチック製が主流になっただけでなく,国産割り箸も販売があやしくなった.それで,各地の林業家がさらに収入源をうしなった.

かんがえ方が違う方向にいくと,おもわぬところでとばっちりを受けることがある.

これを裏返すと,ビジネスチャンスを失ってしまうことがある.

温泉旅館の輸出

日本人ならだれでもしっている「旅館」が,どんどん減っている.
年間にして,1,000軒というペースでの減少である.
この穴を,ビジネスホテルが増えておぎなっている.今年から,民泊が加わる.

国内での成長に限界をみたら,外国に進出する,というのがだいたいのビジネスでやっている.
たとえば,自由化競争によって国内を負われたAT&Tという電話会社がある.電話を発明したグラハム・ベルゆかりの巨大会社が,アジアや南米に進出したのは,30年前になる.これにならって,NTTも東南アジアに進出して,電話局を日本方式の「規格」にした.いま,鉄道などのインフラ輸出が語られる時代になって,鉄道だけでなく私鉄が得意な沿線開発という手法も輸出している.

日本のビジネスホテルチェーンも海外進出をはじめたが,「旅館」の事例はすくない.

温浴施設なら,中国でも店舗の商標問題があるほどだが,日本からの進出ではなく,業態を真似られた事例だ.

なぜ,旅館は海外に進出しないのか?
おそらく,ビジネスモデルを説明できないことがあるのではないか?
確固たる,自社のビジネスモデルを他人,しかも外国人に説明して理解を得ることができない.この「理解」には,投資家も含む.
すると,国内の投資家は,ビジネスモデルを理解しているのだろうか?
この「投資家」とは,銀行のことである.

銀行は,みずからの生き残りをかけた大リストラに取り組まざるをえなくなった.
日銀の低(マイナス)金利政策によって,本業である貸出業務での利益がとれない.それで,このところ各種手数料の値上げがつづいている.資金はあっても,貸したい貸出先がない.貸し剥がしたい貸出先に,旅館がある.

以上をうけて,「事業継承」という名目で,旅館の売買がさかんになるだろう.
その売買方式も,不動産売買ではなく,運営権にまつわるものになる可能性がある.
つまり,家賃方式とか運営委託とかだ.
はた目には「事業継承」だから、営業はつづく.

しかし,こうした方法は,海外進出のばあいもおなじだろう.
オーナーから,旅館経営をまかせられるのだ.

では,ちがいはないか?
「事業継承」なら,他人がビジネスモデルを練り直すことだ.

自社のビジネスモデル(事業コンセプト)を,みずから語れるか,語れないかのちがいのことなのだ.

世界100カ国以上で売れている日本酒

福井県鯖江にある,「梵」という銘柄の日本酒は,ビジネスモデルとしての「味」をつくって成功している.
その「味」とは,濃厚な料理に対抗できるものだ.クリームやチーズ,オリーブオイルなど,とかく洋風料理は濃厚である.これと対等をはれる日本酒というのは,めったにないから「オリジナル」になる.

なにも,日本旅館を洋風にせよ,といいたいのではない.
どこに,「オリジナル」を求め,それを追いかけるのか?をいいたいのだ.

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