物質的な「モノ」のあるなしが競争要件になる,というのはあまり推奨していないが,ひとつ気をつけたいモノがあるとすれば,それは「ドライヤー」であるから,念のため書いておく.
女性の常識
外資系の投資会社に勤務する女性職員たちに,アンケートをしたことがある.
「あなたが気にいってリピートしたくなる宿泊施設の選択条件はなんですか?」
すると,こだわりの人的サービスをあげるのだろうという,わたしの事前期待は裏切られて,「イオンドライヤーの有無」が圧倒的な回答だった.
それで,代表者を数名えらんでもらい,インタビューした.
なぜ,ドライヤーで宿泊施設の評価が決まるのですか?
すると,全員そろって,男性にはわからないかもしれないが,イオンドライヤーを一度でも使えばわかるはず,との返答だった.
そこで,わが家にもあるから,その快適性はわかっているつもりだが,宿泊施設の「選択基準」とまではかんがえなかったことを伝えた.
だから,男性にはわからない,という.
むかしからいう「髪は女の命」のことだった.
温泉宿だと,温泉の成分によっては,相当に髪が傷むことがあるから,トリートメントはあたりまえとして,かんじんのドライヤーが陳腐だと,元の木阿弥になってしまう.そうなると,まとまるものもまとまらない.
出張も同じで,朝の準備が断然ちがうという.自宅とちがって,ホテルだからいろいろ不便もあるが,仕事の準備以前に髪の手入れが重要,とのことだった.
女性が関わってつくったのか?
さらに,彼女たちの主張はつづいた.
「女性客」にターゲットを絞っているような宿泊商品をいろいろみるが,「本物」のバロメーターになるのが「ドライヤー」だから,だという指摘には納得した.彼女らによれば,商品企画に女性が関わっていれば,ドライヤーの選択に「絶対にこだわるはず」だから,見せかけの商品との違いがわかる,はなるほどである.
「男って,食事でなんとか誤魔化そうとするのよね」,「かわいい盛り付けとか」,「悪くはないけど,ちょっと子供だまし的で,そう簡単にだまされないわよ」ときた.
女性を企画に加えない状況も分析してみせる.
「センスのない女将が仕切っているかもしれない」はドキッとさせる.
「パートの仲居さんとかに,発言権を与えていない感じの宿があるけど,そういった施設ほど,イオンドライヤーがない」と言いきるのだ.
そして,「女将というより,経営者のセンスがない」とまで言いだす.
ふつう一台15,000円はするイオンドライヤーを採用すると決めれば,大浴場の脱衣所だけで何台必要か?男女入れ替えをやるなら,脱衣所分は二倍になる.
当然,部屋にも設置しないといけないから,イオンドライヤーの購入費は,結構な額になる.
これが,ふつうのドライヤーなら,安ければ2,000円程度で買えるから,その差はおおきい.
「だから,予算がないとかいって,社長が反対するわけよ.どうせ,髪の毛が乾けばいいんだから,とか言っちゃって」「それで『女性向けプラン』とか言われてもねぇ」と,じつに手厳しい.「企画に女性がいたら,社長を言いくるめることができる」から,やっぱり導入が決まるはずだ.
女性の社会進出によって形成される視点である.
では,イオンドライヤーが設置してあるとどうなのかをきいた.
「第Ⅰ段階クリアですね」とニッコリ笑顔でこたえがあった.
そりゃそうだ.
つまり,イオンドライヤーがないと,もっともおおきな目のザルから,ふるい落とされるということだった.
女性に気に入られるのには,数々の障害をクリアしなければならない.