世界一流を維持する製造業

日本人は手先が器用だから,ものづくりの国,なのだろうか?
妙だが,アメリカ人の手はおおきくてゴツいから,不器用なのだと嗤うことがある.
「妙」だというのは,いまでも世界最大の工業生産物を輩出しているのは,そのアメリカなのだ.
中国ではない.

70年前の戦争に負けたのは,圧倒的な工業生産力が原因だったと,子どもでも識っている.
そんな国にむかって,なんで戦争なんかしたんだ?と,いまでも議論しているのがわが国だ.
わからないから軍を悪者にすれば,とりあえずおちつくが,納得できないからぶり返す.
戦後の男の子がなりたい職業トップは,野球選手からサッカーに変化したが,戦前戦中は一貫して陸軍大将であった.

陸軍大学校を出れば,全員が陸軍大将になれるかといえばそうではない.
すくなくても,卒業時に同期トップ3に入賞しないといけないが,恩賜の金時計をもらえる一番が最有力候補になるのは,いまでもおなじ官僚組織の原理である.
しかし,軍には「幼年学校」というものがあって,ここからが本当のスタートだ.

つまり,ふつうの中学・高校から陸軍大学校に入学しても,トップにはなかなかなれない.
訓練度合いがちがうのは,数年間で克服できない.
それで,本物は「幼年学校」に行く.
今日の自衛隊も,防衛大学校卒だけではいけなくて,「陸自少年工科学校(いまは「陸自高等工科学校」)」から防衛大学校に進学するのが「本物」だ.

しかし,世界最強の米軍とは,その位置づけ(憲法)からしてちがうから,残念ながら,教育の幅に歴然とした差がうまれるのは仕方がない.
「軍」と「隊」のちがいは,雲泥の差というのは,戦力や装備のちがいだけでなく,マネジメント手法にもあるはずだ.

第二次大戦に米国が参戦するまえから,兵器産業はフル稼働していた.
それで,おおくの熟練人材が兵器工場に異動させられ(日本でいう「徴用」である),もとの会社に人材不足が発生した.
それで,米軍が開発した人材育成手法がひろがって,工業の裾野もうまく稼働できたのである.

サラッと書いたが,注目は,米軍が工場の熟練工を速成する手法を開発した,ということだ.
日本の陸海軍がましてやいまの自衛隊が,上記のようなことをしたという話は寡聞にして聞かない.
いまでも民間に,たっぷり「命令」はするだろう.

この手法を戦後日本に伝えたのは,とうぜん開発した米軍で,発信源は東京の立川基地だった.
日本人従業員の大量採用後,その残念な状態,に米国軍人が耐えられなかったのがはじまりらしい.

職場マネジメントの基本も,業務品質の概念も「なかった」のである.
おそらくは,まじめに出勤だけはして,さらに残業もいとわない勤勉さではあっただろう.
これは,昨今いわれる「働きかた」そのものの問題だ.

これは、重要な問題で,戦争に物量に負けた,というのは,思い込みではないか?
その前段にある,論理の欠如,こそが,最大の敗戦原因だろう.
日本人に,論理,があれば,そもそも開戦などしないし,ヒトラーと同盟も結ばない.
隣国をいま,「情緒の国」と嗤うが,われらも同類ではないのか?

食うや食わずの食糧難の終戦直後,基地をつうじて「論理」と「手法」がセットになった「メソッド」を学んだのは,基地出入りの製造業だった.
こうして,日本の製造業の戦前からの大手にひろまり,それから新興企業に拡散した.
もともとが,熟練工速成メソッドだから,兵隊に人員を供出していた企業には渡りに船のはなしだったろう.

そうして,このメソッドにさらなる磨きをかけたのがトヨタ自動車だ.
現在,わが国の製造業で東証一部上場企業のほとんどが,このメソッドを導入している.
しかし,注意してほしい.このメソッドには二方向が用意されていて,製造の品質と組織マネジメントであることだ.

まさに「両輪」である.
これこそが,わが国製造業を世界一流に押し上げたのではなかったか?
それは,日本企業に勤めマネジャーになった人物が,アメリカに逆輸入して成功させていることでも証明される.

ところが,小資本でもできる飲食業や旅館業は,食材集めに翻弄して,このメソッドに触れなかったのだろう.
また,米軍が接収したホテルにも,このメソッドは伝わらなかった.

米軍に気づきがなかったのか,それともホテルが気づかなかったのか?
ましてや,アメリカの有名大学ホテル学科で学んだ先人たちが,どうして気づかなかったのか?
製造業とサービス業はちがうという,常識の壁,がみえないバリアーになっていたのか?
サービス業も,サービスを「製造」しているのである.

不可思議なことがある.

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください