イラン危機に対処できないのに円高

五年半ぶりの円高である。
今回の円高は、ドル安とユーロ安がセットになった円高である。
通貨の相場は、ふつう相対的なものだが、ドルは利下げが、ユーロはEUの危機からの下げだから、円が強い意味の円高になっている。

つまり、なんにもしていない日本の円だけが、相対的に価値が上がっている、ということになっている。
トランプ政権は、為替操作をきらうから、ほんとうは日本政府は円高を阻止したいのだろうができるオプションがない。

円高になると株価が下がるという構図がある。
輸出企業である製造業の輸出が減って、もうけが減るからである。
ところで、外国人観光客がつかうおカネも「輸出」とおなじ効果がある。
円高になると、外国人観光客にとっては、負担が増すから、製造業のそれとおなじ構造なのだ。

だから、日本の占領がおわって、独立するとすぐに「国際観光ホテル整備法」という法律ができたのは、いまとはちがって外貨がぜんぜんなかったわが国で、まずは手っ取り早く外国人旅行者からいただきましょう、という趣旨だった。

まぁ、当時は、これもいまとちがって一ドルは360円という、超円安だったけど。

いま、わが国の国際収支は、資本収支という項目で黒字をかせいでいて、かつての花形・貿易収支はぜんぜんさえない。
後期高齢者のひとたちにとったら、信じられないぐらい、日本は貿易立国でなくなった。

資本収支とは、外国に投資した結果の利子収入のことである。
円高は、外貨建てのままならいいけど、円に交換しようものなら、たちまち円での取り分が減る。
つまり、円高なら、外国に投資して、将来の利子収入を得るチャンスなのだ。

そうはいっても、イラン危機という、朝鮮半島よりも世界に影響がある、石油がからんだ地域での大問題が発生している。
日本のタンカーが何者かによって攻撃されたが、日本政府は犯人をいまだ特定していない。

それで、トランプ大統領から「自国の船は自国で守れ」といわれたら、日本の防衛大臣は「それはできない」ときた。
ようは、これまでどおり、アメリカの傘の下にいたい、という希望なのだろう。

でも、そのアメリカは、だったらその分負担しろ、と請求書を書いてきそうな雰囲気で、国内ではまたぞろどーしょうもない、カネで解決か自前で防衛かの、どっちが得か?という金銭的損得勘定しか議論されないにちがいない。

「国防」を金銭感覚でかたるのは、ローマ帝国末期すなわち衰退期の特徴である。
わが国の衰退は、経済だけでなく、物事のかんがえ方である思想も衰退した。

そんなわけで、どうして円が「安全資産」といわれているのか?
報道では、かならず「いわれている」というけれど、だれがいっているのかをいうひとがいない。
たんなる「うわさ」か「都市伝説」ではないのか?

だれもいわないが、金(Gold)が値上がりしている。
つまり、普遍的価値があるという金を基準にすれば、しっかり円も価値を下げているのだ。

リーマン・ショックでわかったことは、世界中の金融マンたちが、おなじ情報で判断していたということだった。
それは、学部学生時代からMBAを取得するまでからはじまる。
アメリカの金融論や金融工学が、世界標準になっているから、国籍に関係なく、みんなおなじ理論を学んだ。

そして、そうした仲間たちが、こぞって金融機関に就職して、こぞっておなじシステムで相場をみている。
たまに読む、最新の理論情報がでている雑誌も、みんなが読むという状態になっていた。

つまり、優秀なひとほど、おなじ発想をしていたのである。
しかも、情報源もおなじだった。

そうやって、サブプライムローンの証券化という商品に、だれも疑問をいだかず、かんがえた人間たちは、当初、巨万の富を得た。
ところが、だれかが「王様は裸だ」といったら、雪崩をウって崩れ去ったのは、仲間うちへの「疑心暗鬼」が原因だった。

つまり、だれもが「信用できない」と、こんどは互いに互いを疑ったのである。
優秀なはずのひとたちが、そんな体たらくで、じつはただ卑しい発想をする人たちだったことが、世界中の一般人の目にさらされた。

世界を相手に張り合う気概がなくなった日本人は、生活の根源的資源を中東から輸送しないと生きていけない。
堺屋太一の出世作にして、無邪気にも通産官僚の価値観丸出しの小説『油断』がでたのは1975年、第一次石油ショック(73年)の後にして、第二次石油ショック(イラン革命:79年)の前であった。

あれからほぼ半世紀。
この構造は、なにもかわっていない。
むしろ、より複雑になっているようにもみえるのは、インターネットのおかげで情報が細かくなったからである。

イランにも入れ子型の問題があって、核問題を表面に、その内側にイラン内部の民族問題があり、それが宗教対立をうんでいる。
けっして一枚岩の結束がある国ではない。
それを、しってかしらずか、安倍総理が出かけていって、案の定成果はなにもなかった。

それなのに円高。
これは、都市伝説だ。

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