人情とまさかのキャッシュレス化

中央計画経済の計画策定をめぐる困難さは,1921年に創設されたソ連の「ゴスプラン(国家計画委員会)」がどうなったかでわかる.こたえは,国家の崩壊であった.
しかし,その創設一年前の1920年にミーゼスが発表した「社会主義共同体における経済計算」という論文で,その「不可能性」がはっきりと指摘されていたことにもっと注目すべきである.

青山学院大学の故吉田靖彦教授の「社会主義経済計算論争再考」(1991年)に詳しい.
また,ミーゼスの著作なら「ヒューマン・アクション(人間行為の経済学)」(春秋社,2008年)が,大著だが読みやすい.しかし,古書で50万円の値がついているから,電子書籍版か図書館に頼ることをおすすめする.

わが国における「経済学」が,マルクスに脳髄を冒されたまま,なんとかの一つ覚えよろしくいまだに先進国のなかで唯一ケインズ一辺倒を維持しているのは,ある意味いじらしくもある.
完全な勘違いにもかかわらず,経済官僚たちによる戦後経済復興の「成功体験」という幻が,夢うつつのまま忘れられないからだろう.

あのサムエルソンの有名な教科書「経済学」は,米ソが「対等に」対峙していたという,これもおおきな勘違いだったことの前提から,「混合経済」という資本主義と社会主義を「混ぜた」いいとこ取りを提唱するという「猛毒」だった.

ところが,訳者であって,わが国経済学会を牛耳っていていたマルキスト都留重人が,これを東大で積極的におしえたのが効果てきめん,各大学の教師と官僚がみごとに染まってしまった.
いまだに大学の経済学部にはいるのに,受験で数学を要しないのは,マルクス経済学という「文系」を前提としたからである.

そういう意味で,さいきんになって再評価されてきている上述したミーゼスが代表する,オーストリア学派(ウィーン学派ともいう)の「経済学」は,なるべく早い時期に取り込んでおけば,免疫力をたかめるワクチンでもあるし,もし「発病」しても解毒剤としての効能もおおいに期待できるのである.

だから,影響力のある大学の先生や経済官僚を自負する人たちやその予備群には,はやくミーゼスなりのオーストリア学派を飲み込んで,自浄作用を期待したいのだが,そうはならないのがわが国の宿痾である.

その病気が,「キャッシュレス化推進」という政策にあらわれて,経産省さんのお役人たちが中国で普及したという「バーコード式」に飛びついて,これを使えと民間に命令しようと準備をはじめた.
命令はムチだが,例によって補助金というアメも用意する,いつもどおりのワンパターンである.

ところが,これまで景気を気にして優柔不断を繰り返した「消費税率」の問題が,いまだにはっきりしないから,レジと連動したクレジットカードの処理端末すら普及しない.
もちろん,税率変更に対応したレジの更新もしないのが民間における経費削減のすさまじさである.
補助金をやるやから「やれ」と命令したが,正式に決まるまで動かないのは「人情」だ.

静岡県の銀行の不祥事や,九州の県をまたぐ地銀の統合問題の公取委の判断など,AIだけでなくこのところ銀行をとりまく話題が豊富だ.
将来をみれば,人口減少とAIが脅威となるが,足下はなんといっても日銀の「異次元緩和」というむちゃくちゃで,マイナス金利という人類史上はじめてがとびだして久しい.

銀行があまったお金を日銀に預金すると,利子をくれるのではなく手数料をとられてしまうから,誰かに貸さなければならないが,金融庁が「担保をとれ」と命令するから,不動産でうまい貸出先はないかとさがしたら,でてきたのが「かぼちゃのばしゃ」だった.

誰でもいいから貸さねばならぬが高じたら,てきとうに書類をつくればいいことになったのだろう.
それで,不正がばれたら,こんどは金融庁が,不動産融資を「監視する」というむちゃくちゃで,銀行の稼ぎはどうしたものかになって今がある.

半沢直樹のドラマのような展開で,自己目的化した役所に振り回されるお気の毒な銀行だが,その後始末はかならず一般国民がかぶることになっている.
それで,10月から銀行だけでなく郵貯も,キャッシュカードの取り引き手数料を「値上げ」して,小銭を稼ぐことになった.

預金者は気がつけば,自分のお金を引き出すのにお金がかかる事態になる.
そんなバカな,と防御策をかんがえたら,キャッシュレス化がもっとも合理的だ.
クレジットカード系,流通系,交通系も,携帯だって,つかえばポイントをくれるから,現金を引き出す手数料との差額分が「お得」になる.

主幹の役所がやろうして命令してできないことが,別の役所の命令から「まさか」のキャッシュレス化がすすむに違いない.
それが「人情」というものだ.
ミーゼスのいう「人間行為の経済学」がとっくに教えてくれている.

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