候補者をえらべない

統一地方選挙がはじまった。

地方の選挙を同時期に「統一」させたのは、むかしの自治省の役人だった。
任期途中に、さまざまな理由で辞めたり辞めされられることもあると、どこまで「想定」していたかしらないが、長年のあいだに「ズレ」ができて、事情が発生した自治体では、統一地方選挙には関係ない地域がある。

だから、統一地方選挙が同時期におこなわれている地域では、さまざまな事情がこれまで発生しなかったという意味もある。
これを喜ぶべきか悲しむべきかはさまざまだが、「順当」が単純に自慢できるわけでもない。

むかし、といっても近代日本で、「内務省」こそが最大最強の役所だった。
「大蔵省」も「商工省」も、いまのような力がなかった。
それで、内務官僚といえば、エリート中のエリートだった。

それが、看板を「自治省」に替えたら、なんだか地味な感じになったが、全国の自治体を支配する構造にかわりはない。
ついでに、警察も消防も、どちらも「庁」がつけば、自治省の外局だったのをおもいだせばわかるだろう。

官僚組織では、全省庁の事務次官をあつめた会議が定期開催されている。
この会議の議長が、事務担当内閣官房副長官で、このひとは歴代自治省の事務次官からなる、つまり、やっぱり事務方のトップ中のトップは戦後も自治省(旧内務省)だった。

地方自治体がどこまで「自治」できるのか?といえば、かなり「自治省」の役人から指示される。
ふるさと納税で、当該の自治体と、いまは総務省という旧自治省がケンカしているのは、報道のとおりである。

こうしてみると、産業を支配する官僚組織の構造が一般的ななかで、地方自治体を支配するのが旧自治省だから、民間人にははかりしれない権力を旧自治省の役人はもっている。

民間をしばる方法の有効手段が、補助金漬けにするものだが、地方交付税というおカネが、地方の自治を骨抜きにして、命令を守らせる根拠になっている。

だから、地方自治体の「自治」とは、わずかな「すき間」に存在する範囲でしか「自治」できない。
そうやって、この国では、どこに引っ越してもだいたいおなじ住民サービスがうけられるという「建前」が構築されている。

けれども、その「すき間」とはどこのことだ、と具体的にいうひとがいない。
むしろ、そんな「すき間」なんて関係ないほどに、「自由」な「自治」があるようにいうひとばかりだから、住人も勘違いして「フリーハンドの『自治』がある」と思いこむ。

こうしてみると、じつはだれに投票してだれが当選しても、おおきく「自治」がゆらくごとがない。
それは、上述のように、そうならないように「できている」からである。

だから、「大阪都構想」という論点は、「建前」に対して変化させる主張になるので、だれに投票してだれが当選するかで、おおきくゆらぐことになる、稀有な争点の選挙なのである。

「平成時代」といういいかたにもうなっているけれど、「自治」という目線でいえば、「平成の『大合併』」という自治体同士の「合併」が、旧自治省の役人主導で実施された。

いま、地方銀行の生き残りで行われているのが「合併」だけれど、どうして「合併」しないといけないか?という根本理由が、自治体の「合併」とおなじ理由になっている。

規模をおおきくしないと、生き残れない。

さすが、旧自治省のエリート。
経済官僚のはるか先に、実行してしまったのである。

しかし、残念だがここにおおきな落とし穴がある。
自治体が生き残ることと、住民が生き残ることが、主客逆転しているのだ。

そこに住民がいるから行政サービスがあるのであって、行政サービスのために住人がいるのではない。

こんなことは百も承知だが、国家の行政機関ができることは地方の行政機関を保護することしかできない。
それで、しかたがないこと、になる。

そうやって過剰に保護された自治体という役所群は、ひたすら自己増殖をこころみて、住民をみない。
そんな自己増殖ができるのは、国からおカネが降ってくるからだから、自己増殖する主張をすれば、選挙に受かる可能性もたかくなる。

選挙では合法的な「買収」が、声高に叫ばれて、だれに入れても入れなくても、結果はおなじか変わりようがない。
候補者が、ひたすら名前を「連呼」する理由がここにある。
じぶんが受かればいい、という意味が、薄っぺらになるしかない。

こうして、候補者をえらべない有権者は、一部の生真面目なひとをのぞけば、どうでもいい投票行動をして、これを「専門家」が結果分析して、さらなる選挙準備の基本データにするから、スパイラルになってとまらない。

あと何年、これをつづけるのだろうか?
「自治の死」が、はっきりするまでなのだろう。

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