分別のない分別収集

中国政府が「突然」輸入禁止して,「資源ゴミ」業界がたいへんなことになっている.
「ゴミは資源です」という,戦争中の標語のような「意味なしフレーズ」の化けの皮が剥がされたのは,なんと外国政府のおかげだった.

2000年に出たこの本,「リサイクル幻想」が,武田邦彦教授の名前を事実上世に出したものであったとおもう.
武田教授は,この年,三冊の「反リサイクル本」をだしていて,当該図書は最後の一冊である.

当時は,MS-DOSの「2000年問題」が大騒ぎのなか収束したが,90年代のおわりに同時にやってきたのが「環境問題」だった.
1992年にブラジルで開催の国連「地球環境サミット」から,「環境問題」が話題になった.
このサミットを受けて,1996年にいわゆる「ロンドン条約」の「96年議定書」が結ばれた.
「海洋投棄に関するロンドン条約」といっていたが,この議定書によって糞尿や排水管の汚物,生ゴミ処理のための海洋投棄ができなくなった.

これが,わたしが勤務していたホテルにも影響した.
いわゆる「陸上処理」をしなければならなくなったのだが,処理をするのは業務委託先の「廃棄物処理業者」である.だから,ホテルが直接関係するとは最初はかんがえていなかった.
ところが,陸上転換にはたいへんな資金が必要だとわかった.
それで,ホテルも資金提供をしなければならくなって,わたしがその担当をした.

日本の対応はあんがい遅く,国内法での「禁止」は,2007年になってからである.
ちなみに,福島の原発事故で海に流出した放射性物資についても,この条約が適用されるはずであるが,どうなっているのか国民に知らされていない.

そんなわけで,「リサイクル幻想」は,かなり驚いた内容だった.
しかも,「科学」というより「化学」の目線での解説だったから,よけいに驚いたものだ.

「変だな」とおもうことはたくさんある.
なかでもマスコミがキャンペーンをはる話題はたいがい「変」である.
それで,「ダイオキシン」が連日話題になったときにも,違和感をかんじた.
すると,東大医学部の毒物の専門家,和田教授が「科学が社会に負けた」という名言をのこされた.
教授の実験では,ダイオキシンの毒は「ニキビ」ができる程度という.

これは、おそろしいことである.
「日本社会は社会状況を人為的につくりあげることができる」という証明だからだ.
科学=サイエンスのこたえより,マスコミがつくる「風評」が社会をうごかす.
そして,科学者の声より,素人コメンテーターの「~だろう」という予測が社会的信用をえるのだ.

NHKのキャンペーンもすさまじかった.
さまざまなゴミを「ちゃんと」分別している,模範的国民の家庭事情を特集で放送したことがあった.
その人の台所は,「ちょっと置き場がなくて大変なんです」という状態だったが,「地球環境のため」という理由で,一生懸命やっているひとが正しいと放送していた.
まさに,「ほしがりません,勝つまでは」.わが国は,戦時体制下にある.

そうやって,いつの間にか「ゴミ利権」ができた.
社会のさまざまな分野に「利権」をつくった天才は,田中角栄である.
その「利権」からうまれる「お金」が,彼の「金権政治」の源泉である.
実際に,昨今,自民党の派閥が意味をなさくなって凋落したのは,ぜんぶの派閥が「田中派」になったからである.

ペットボトルの「ペット」とは,犬や猫の「ペット」ではない.
チレンレフタラートという高分子体を略して「PET」といっている.
「高分子体」というと聞こえがいいが,石油の化学的加工の最終物質である.

ドロッとした液体の原油には,さまざまな物質が混ざっているから,これを精製するところからはじまる.それが,つぎにプラスチックや人工繊維など,さまざまなものに加工できるのは,「低分子体」だからである.
紙おむつなどにつかわれる,「高分子吸収体」というのも,やたら水を吸うけれど,吸ったらそのままでもう加工できない.だから,使い捨てるのだ.

行政は,ほんとうは加工ができない「ペットボトル」を「資源」だといって,市民に無料で回収の手間をかけさせて,水を含んだ生ゴミ処理で一緒に燃やせばいいものを,わざわざ別便の回収車を燃費をつかって走らせて回収している.
それで,「資源」だからと,バーゼル条約に違反して中国に「輸出」してお金にしていた.

バーゼル条約というのは,1989年の条約で,わが国の加盟は1993年.
「有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約」というから,内容はだいたい見当がつくだろう.
つまり,ゴミを外国に移動させてはならないのだ.

輸入した中国では,ほんの一部をぬいぐるみ人形などの中綿にしていたが,おおくは「資源」として燃やしていた.
日本の焼却炉は,ダイオキシンなど有害物質がでないように,お金をかけて高熱燃焼に耐えるように改修したが,中国の焼却炉はそんな手間はかけていない.
それで,有害物質が偏西風で日本にも飛んできた.

「自業自得」というには,あまりにお粗末なはなしである.
「分別」できない人間が,「分別収集」にいのちをかけたら,ほんとうに健康被害者になってしまった.
もちろん,それでもっと酷いことになったのは中国の空気である.

今回の輸入禁止措置で,資源のはずのプラゴミが日本であふれかえっている.
そのうち,シラーッと焼却処分することになるしかないが,市民はムダな分別をずっとやらされることだろう.

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