「国際標準」に従ったり,そうでなかったり

小池知事の東京都で,「家庭内禁煙」も含めた条例化が話題になった.禁煙条例を最初に可決した神奈川県でも,当初案には「家庭内禁煙」があったが,さすがに「個人の自由」を侵すとしてすぐに原案から削除された.しかしながら,今回の東京都の場合は,「オリンピックでやってくる大量の外国人客に恥ずかしい」という理由づけがあった.

欧米の近代民主国家が歩んできた道で考えると,「個人の自由を保障すること」は,最優先されることであり社会の基盤である.当然,日本国憲法でも保障されていることだ.近代民主国家の「憲法」とは,よく「最高法規」といわれるが,これだけでは憲法の位置づけがわからなくなる.「憲法」とは,「国民から政府への命令書」なのだ.つまり,憲法を守らなければならないのは,決して一般国民ではなく,地方も含めたすべての公務中の公務員(公務を終えれば公務員も一般国民になる)なのだ.民主国家の国民からの命令書だから,最高法規なのであって,憲法が国民生活を縛るものではない.つまり,個人の自由行動である喫煙を公権力が強制的にやめさせる「禁煙条例」は,あきらかに「自由を保障した」憲法違反である.これを「護憲派」が批判しないのも不思議である.あの,ヒトラーのナチスは,「禁煙」を政策として人気があったことを,また,その理由が,ヒトラー自身が嫌煙だったからということを「護憲派」が知らないはずはない.「喫煙」と「嫌煙」の関係は,マナー問題とすべきで「権利」にしてはならない.「嫌煙権」を認めれば,別の問題でまた「権利」が生まれ,それを政府が強制することをくり返せば,知らずににっちもさっちもいかない全体主義国家になってしまうからだ.そして,そのときの最高権力者は言うだろう「国民の要望を完全に実現した国になった」と.

「外国人に恥ずかしい」という心情が,近代国家の基礎である「自由の保障」から優先されるという倒錯は,単純に「倒錯」であるから,ご都合主義になる.たとえば,食品安全規格についていえば,日本の規格は世界標準になっていない.東京オリンピックで提供しなければならない日本の生鮮食品の安全規格が,世界標準でないということは,日本の食品を拒否する参加国がでてもおかしくない.つまり,輸入食材を使わなければならなくなるということだ.これこそ,外国人に恥ずかしいことではないか.その要求レベルは,「無農薬だから安全」などということではない.たとえば,農園や輸送の人事管理で,従業員の身元確認義務まで含まれるし,農園内の立ち入り規制義務もあるのだ.第三者が簡単に畑に入れる日本では,ほとんどの農産物が「規格外」になってしまう.日本人はまじめで善良だし,移民や難民がほとんどいないから,農地や流通過程で毒をいれる者なんていない,とお役人は言うだろう.それが世界に通用するなら,どの国だってそんな安全規格をもとめやしない.

アメリカは2018年にトランス脂肪酸含有の食品を禁止する

オリンピックはその二年後だけど,18年以降のアメリカ人訪日客は,日本では「規制がない」ということをどう考えるのだろうか.現状では,食品に含まれることの有無すら「表示義務がない」し,厚労省のHPをみてもわかるが,日本政府は規制をかける気すらない.「平均的に」日本人は欧米人に比べトランス脂肪酸摂取量が少ないから問題ないというのだ.法学部出身の文化系の役人のレベルが低すぎないか?現在,中学や高校では「統計学」がカリキュラムにある.データはなるべく「ヒストグラム」や「散布図」にして分析するのが基本と教えている.データの広がり具合が「平均」ではわからないからだ.あるテストで,クラス全員が65点だったら平均も65点,ところが,65点を中心に一点差で下位に20人,上位に20人が並んでいても平均は65点である.「平均値が低いから安全」という論法では,中学生にすらバカにされるだろう.それに,医薬品の分野では,欧米の新薬がすぐに認可されることはない.身体の大きい欧米人と小さい日本人とでは,薬剤の分量を減らす必要があり,その程度を確認するために時間がかかるからだ.おおむね半分ぐらいにならないか.だとすると,日本人が摂取しているトランス脂肪酸の許容量も,欧米の半分ぐらいが適当とすれば,厚労省がいう安全分量の基準は,現実的に危険領域に近づくのではないか?と素人でも気がつくことだ.輸入医薬品のときは「科学的根拠」をあげ,トランス脂肪酸の場合は曖昧にする.つまり「国民の健康より業界保護が優先」と言っているに等しい.加えて,オリンピックでやってくる外国人客は全員が,トランス脂肪酸について日本国内に入った途端,急激に無頓着になると本気で思っているのだろうか?厚労省の役人は,外国人観光客など,しょせんたいしたことないから無視してよいと考えているのだろう.上から目線もここまでくると「病気」である.わたしたちは,こんな危ない病気の役人に支配されている.

宿泊施設では,朝食にマーガリンではなくバターをお出しするから問題ない,というレベルの話ではない.目玉焼きを焼くときの油がサラダオイルならアウトだし,パンにショートニングが入っていても「禁止」があたりまえの国のひとたちにはアウトである.こうしてみると,天ぷらは?トンカツは?あるいはコーヒー・フレッシュは?という具合に,芋づる式になってくる.日本のトランス脂肪酸天国をSNSで発信するひとも出てくるにちがいない.

では,世界のどのくらいの国でトランス脂肪酸「規制」が行われているのだろう?ぜひ,ご自分で「検索」してみるとよいだろう.そして,それらの国からの訪日客がどれくらいのシェアかを考えていただきたい.

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