せんべい布団

旅館やホテルに泊まった翌朝,腰が痛くなっていることがある

枕の高さがあわないのか,布団やベッドがへたっているのか.その両方かも知れない.

試泊する習慣がない

言葉遣いや所作,あるは料理といった分野で「おもてなし」にこだわるのはいいが,「快適な睡眠」も立派な「おもてなし」である.浴衣やパジャマにこだわることがあっても,そこそこ低料金の宿で「寝具」にこだわっていることが一泊だけの客にもわかるところは案外少ない.こうした施設の特徴は,支配人・女将さんといった幹部や,従業員さんも含めて,自分が客になって試泊するということをやっていないことが多い.

ただだと思ったら,とんでもないことに

困窮している宿ほど,「お金がかからない」からと,むりやり従業員にサービス業務を増やして命じていることがある.このなかに,提供者として「よかれ」というサービスが客のニーズとマッチせず,お客様にも押しつけているものがある.これが,本ブログのタイトル「おもてなし依存で……こわれちゃう」の典型例だ.この例ような「お金がかからないから」といって従業員に負担をかぶせることが,実はとんでもない損失につながっているのだ.第一に,疲弊した従業員が退職してしまうリスクが増大する.第二に,地元で新規従業員を募集しなければならなくなるが,応募がない.「きつい」という職場環境が噂として地元社会に流通するからだ.第三に,欠員状態が,さらなる疲弊を招き,...という悪循環におちいると,経営そのものが成立しなくなる.地方にいけば,仕事を探すのが大変だ.だから,従業員さんもできれば辞めたくない.そんなひとが,辞める決断をするのだから,重いはなしなのだ.

本来,モノで釣るのはいかがかと

その施設の業務全体を見たうえでだが,手っ取り早い改善として,寝具の見直しを奨めている.部屋数にもよるが,一気に全部を交換することも,単価がとれる部屋から順に交換することも,どちらもありである.「おもてなし」の差で,競合と差別化をはかりたいとしても,それには客層や従業員のレベルなどを勘案して,なにをどう実行するかを検討しなければならないから,それなりに時間がかかる.なによりも時間がかかるのは,従業員がその気になることだ.すると,その間にお泊まりいただいたお客様に,そんな改善の検討をしていることが伝わらないで,従来どおりの評価しかいただけない.だから,時間稼ぎの意味もある.

できれば地元の布団屋さんを

真綿の伝統的な高級布団は,高価すぎて手がとどかないことがあろう.けれども,地元の布団屋さんだってプロである.新素材も含め,検討するのはおおいに勉強になるし,さまざまな素材特性と自社の利用客イメージから,自然と選択の基準ができるはずだ.「共同プロジェクト」として,気に入ってくれたお客様にお店を紹介することもできるだろうし,布団屋さんも自社HPなどで宿の宣伝をしてくれるだろう.

変化をおそれずに,変化を楽しむ

寝具変更は,宿泊施設にとって投資額として小さいけれど,いざとなると小さい話ではない.それに,しょせん物質的なことなので,競合も同じかそれ以上の寝具を導入したら,あっという間に競争のためのツールではなくなってしまう.これは,正論である.ところが,日本の宿業界は,一部をのぞいて自社での試泊も習慣にないから,地元の競合他社に泊まってみることをまずやっていない.「顔」でバレるからだ.だから,やってみるとお客様からの評価が上がる.これが気持ちいい.たいがいの困窮化した施設の特徴は,おそろしくコンサバだから,ちょっとした変化を嫌う.それは,あまりにも長い間,成功体験がないことからの硬直である.寝具交換という,低めのハードルは,次のステップに踏み出せるようになるための心の訓練でもある.

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