「安全」はリスクである

学問的成果の有無という観点でいえば,「地震予知」における成果はほとんどない.
けれども,わが国は世界有数の地震国である,という不思議な「自負」もあって,「地震」にかんする研究には多額の予算が投じられている.

なかでも,「予知」に関しては,ずば抜けた「投資」をしている.
文部科学省のHPに,いちおうの資料がある.
自分たちで管轄していることに変わりはなく,つねに御殿女中のような細やかさでイビりを趣味嗜好とする役所が,国立大学が独立行政法人になったからといって,資料がない,と主張する神経に自ら異常をかんじない異常に,かえって「感心」すらしてしまう.
この資料は,何のために誰のために,という目的すらマヒしたことを国民にしめしたいのだろう.

そんな日本政府における権力構造を支えるのは,なんといってもカネ=予算だから,旧大蔵省=現財務省の主計局が最強といわれている.
しかし,予算を使うにあたっての最強の役所は,あんがい目立たない「内閣府」である.
「縦割り行政」を横につなぐのがここだからだ.

小松左京の傑作『日本沈没』では,「スーパー官僚」の主人公が所属するのは総理府だったが,『シン・ゴジラ』では,内閣府に看板をかえている.
ただし,この役所も,各省庁出身者からの寄せ集め的性格も内包している.
就職して最初に配属になった省庁が,各個の「本籍」になる.これは,一生かわらない.
それで,本籍とは別の役所に勤務することを「出向」とよんでいる.
だから,内閣府に本籍がある役人は,すごい,のだ.

 

そんなすごい役所が取り仕切るなかに,「中央防災会議」がある.
ここが,昨日「南海トラフ地震」における住民・企業・自治体がとる「べき」対応を発表した.
情報の中身は,それぞれが確認されたい.

この報道のなかで,中部地方の地図がしめされて,海ではなく内陸部の境界線に注目すると,それが「中央構造線」であることに気づくだろう.
本州を東西に分断するのが静岡・糸魚川線上の「フォッサマグナ」がしられているが,サカナの背骨のように,本州から四国・九州の地面を分断しているのが中央構造線である.

山梨県から愛知県にいたるラインは,ほぼ「中央高速道路」がこの線の真上に建設されている.
だから,理論どおりなら,「中央高速道路」はかなりあぶない.
なぜそんなところに道路をつくったのかの理由はかんたんで,「谷」をなしているからだ.
あとは,山ばかり.
人間が移動につかうための路は,太古から地形に支配されている.

さて,中央防災会議の議論も,地震予知の研究に多額の予算がつくのも,地震がおきたときの被害が大きいからである.
この発生するだろう被害を想定することは,リスク評価,といいかえることができる.
それで,地震は避けられないリスクであるから,予知できたら発生前に逃げることでリスクを減らそうという発想がある.

だから,予知できないとなんにもならない.

これが,地震予知にかんする批判の根っこで,困ったことに,その予知ができたためしがない.
東日本大震災の余震では,数秒前に携帯が警報ブザー音をだしたが,それでどうしろというのか?
家庭犬がこの音に反応して,恐怖するようにはなった.
犬の記憶力はせいぜい5分ばかりだから,音がして数秒後にくる揺れ,ということが学習できた.
だから,しつけにこまっている飼い主は,このことを応用すれば,犬のしつけができる.

こうして,できない予知に予算を投じるのはおかしい,という議論になるのは,費用対効果,ということになる.
ここでいう「効果」とは,「効用」ということだが,ひらたくいえば「メリット」すなわち「得」である.

つまり,費用という「損」と,メリットという「得」を天秤にかけることとおなじだ.
いつくるかわからない地震というリスクで,得になる,とはどういうことか?
第一には,生存,であろう.
すると,生存のためには,どんな準備が必要なのか?になるから,そのための準備が費用(コスト)になる.

裏返せば,費用をかけないことは準備をしないことだから,生存しなくてもいい,という意味にもなる.
これが,個人の生活なら,各人の判断があるけれど,近所に迷惑がかかる.

商売人なら,近所迷惑だけではすまない,賠償問題までかんがえられる.
だから,最低でもお客様の安全,従業員の安全は,コストをかけなければならないのだが,これは,「得」のためである.
すると,リスクには,得がひそんでいることがわかる.

宿泊業のリスクは,地震で建物が崩壊することからはじまって,火災,食中毒,温泉ガス,などなど,たくさんあるのだが,これらの対応準備にひつようなコストをかけることが,得になるのだ.
つまり,利益をかんがえたとき,利益率とはリスクを飲み込んだうえでの数字という意味になる.

だから,利益計画とは,リスクの評価を必須にするのだ.

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