「美味しい料理」は旅館選択基準になるのか?

「グルメブーム」と「飽食の時代」

80年代という説もあるらしいが,90年代のバブル期には遅くても「飽食の時代」と言われはじめていた.だから,短くみてもおよそこの30年間は,「飽食の時代」という時代が続いているとかんがえてよいだろう.最近では「呆食の時代」ともいうらしい.「飽食」とは「飽和状態」の「食」のことだ.つまり,裏返せば「食品廃棄」の時代でもある.
ところで,「グルメブーム」はいつからだろうと探ると,80年代という説がでてきた.「グルメ」から進化して10年ほどで「飽食の時代」になったということか.すると,わが国の「グルメブーム」はおよそ40年間!続いていることになる.これではいっときの「ブーム」とは言えまい.

執念かもしれない

テレビのワイドショーを毎日観ている現役の就労者は少ないだろうが,定年後のみなさまの最初の驚きは,テレビは「グルメレポート」ばかり,ではなかろうか.焼け跡世代(戦中生まれ)に団塊の世代(1947年~49年生まれ)から,1960年代前半生まれ頃までは,青ばなを垂らして,すそがテカテカだった子どもがいた.これはタンパク質の栄養不足が原因らしく,食糧不足から「欠食児童」という言葉まであった.しかし,日本人の栄養不足は,なにも戦後だけのことではなく,ずっと昔からあったことだった.すなわち,近年40年間も続く「グルメブーム」とは,太古から基本的に貧しかった日本人が,かつて経験したことのない,「食への執念が成就した日々」ともいえそうだ.

美味しいものがあふれている

東芝の経営難で,テレビアニメ「サザエさん」のスポンサー交替が話題になるなか,「サザエさん」自体も話題である.もはや,東京郊外で親子三代の大家族が一戸建ての平屋に同居する形態は,珍しくなっているからだ.ましてや,母娘ともに専業主婦!というのは,よほど余裕のある家でなければありえないかもしれない.いまや,典型的な家族は,親子三人暮らしになっているし共働きは当たり前,片親(シングル)による家庭も無視できない.だから,原材料から仕込むちゃんとした手料理ばかりが食卓にのぼることも珍しいことになってきた.手軽に購入できる惣菜のレベルもあがって,少人数分をつくる手間より重宝することになった.全国に5万軒あるコンビニの系列ごとのプライベート・ブランドにいたっては,ちょっとしたレストランや料理店のものと遜色ない品質の商品が陳列されている.買い物客は,ほぼ「原価」でお店と同等のものが食べられる.かつてのファミレスも分化して,価格訴求型と高級型になった.高級型では,ホテル並の品々が気軽に選択できるし,接客サービスもおざなりではない.

プロの料理が問われるているのは「味」ではない

お金を出して購入した料理が「美味しくない」はずがなくなった.まして,流通網が発達して,日本全国どころか世界中から食材が供給されていて,それを自宅でネット注文が出来る時代なのだ.旅の醍醐味である「わざわざ感」が急速に消滅の危機にある.それでもひとは旅に出る.この「それでも」というのは,現地における「事前期待値」のことである.つまり,臨場感を味わいたい,とか,作り手と話がしたい,とか「わたしのためだけの特別な」といった「生の経験」にたいするわくわく感である.そんなお客を受け入れるには,綿密な準備が必要だ.その準備とは「事業コンセプト」にのっとった「商品提供」なのである.

なにに特化するのか?

「旅」の醍醐味は,ずいぶん前から「非日常」だといわれてきた.「日常」とはちがう時間をすごすことでの,「リフレッシュ効果」を買うのだ.「旅人」になるひとの購入目的が,「リフレッシュ効果」であるから,提供側はその目的を達成させてあげなければならない.ところが,「リフレッシュ」したと感じる「感じ方」がひとそれぞれだから,ある一定のパターン(定型)の提供だけでは不満におもうかもしれない.それで,あれこれかんがえるわけである.結果的に,この努力がアダとなっている観光地や旅館がおおい.要するに,自らの魅力を「一本柱」として打ち立てずに,あれもこれもと足し算するから,訪れた旅人は特徴がわからなくなって消化不良をおこすのだ.この「一本柱」こそが,「事業コンセプト」である.その地域の魅力はなにか?その地域の中にある自家の魅力はなにか?その自家の中にあるそれぞれの魅力はなにか?というように,入れ子人形のような構造をしている.この一つ一つの階層が哲学として,系統立ててつながっていることで,はじめて訪問する旅人の感覚に波状攻撃をかけることができる.裏返していえば,周辺と横並びの観光地,横並びの旅館,横並びのサービスや料理という漫然とした状態が,いかに旅人を落胆させてしまうか,ということだ.国内がつまらない,それならいっそ,格安ツアーで海外に出かけた方がよほどに「非日常」が購入できる.しかも,安価で.だから,国内観光地とそれに付随する旅館などの各施設は,外国との顧客獲得競争をしているのだ.

「美味しい料理」だけでは選択基準にはならない,ということだ.

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